二度目の結婚は、溺愛から始まる
(ち、ちょっと待って……三回寝ればわかるって、なに? 三回ヤッてダメなら望みはないってこと? どんなにいい人でも? 心より体が重要なの? 売れない俳優って、どういうこと? オツムからっぽって??)
ヒートアップする兄妹喧嘩の赤裸々な会話に、めまいがした。
これまで一ノ瀬兄妹の恋愛事情に首を突っ込んだことはなかったが、今後も無理そうだ。
「お! もうやってるみたいだな?」
ガレージまで車を進めると、庭の奥、広々とした芝生の上でバーベキューグリルを囲む男女の姿が見えた。
わたしたちの車を見つけた緑川くんが駆け寄り、空いているスペースを示す。
涼が車を停めるのを待って降り立つと、食欲をそそられる匂いが庭いっぱいに漂っていた。
「こんにちは! 待ってましたよ~! お肉はたくさん用意したので、安心してください! まずは、蒼と紅さんのところへご案内しますね? 紫ちゃんの授乳タイムで、二人は家の中にいるんですよ」
「そうなの? ぜひ会いたいわ」
写真でも、蒼の赤ちゃんは相当かわいかった。
ぜひとも実物を見たい。
それに、蒼のお嫁さんの好みをデザインに反映させるためには、ある程度彼女と親しくなっておく必要がある。
涼は彼女と面識があると言っていたから、打ち解けるのに苦労はしないだろう。
ところが、そんなわたしの思惑をよそに、てっきり一緒に挨拶しに行くものと思っていた涼と愛華が、あっさり辞退した。
「俺と愛華は、先日軽く打ち合わせ済みだ。椿だけ行って来いよ」
「ついでに、じっくり話してくれば?」
「え? え? ちょっとま……」
「そうですね。込み入った話になるかもしれないし、その方がいいかも……」
緑川くんまで、何やらぶつぶつ呟きながら、賛成する。
手を振り、さっそくビールを飲み始めている二人を肩越しに睨みつけて、緑川くんに背を押されるまま洋館の正面――玄関へと向かう。
「椿先輩。それ、デザイン画ですか?」
わたしが肩にぶら下げている図面ケースを指さして、緑川くんが首を傾げる。
いい歳した男性がやるには、相手をイラッとさせかねない仕草も、緑川くんだと許せてしまう。
大学時代、主に年上のお姉さまたちのハートを鷲掴みにしていた魅力は、いまも健在だ。
(それなのに……肝心の好きな子には、『いい人』扱いしかされていなかったわね)
不憫なのは相変わらずなのだろうかと思いながら、頷いた。
「そうよ。一応、三パターンほど描いたけど、あくまでも原案。お嫁さんの意見とか好みを聞いてから、細部を詰めようと思って」
「それなら、なおさら中でゆっくり話した方がいいですね。今日は、打ち合わせと言ってもほとんど名目にすぎないですから」
「そうみたいね」
ちらりと見たバーベキューをしていたメンバーの様子は、かなり酔っ払っているようだった。
学生時代、研究会だ評論会だと適当な名目で飲み会をしていたのと同じ展開だと思われる。
「蒼! 紅さん! 椿先輩だよ!」
玄関を入ると外観を裏切らない、温かい雰囲気の内装に出迎えられる。
「お邪魔しまーす……」
ふかふかのスリッパや傘立ての傘、カフェカーテンなどにさりげなく猫のモチーフが使われていた。