二度目の結婚は、溺愛から始まる
(これが……噂のお嫁さんブランドね)
にやけてしまいそうになるのを堪えつつ、緑川くんの後を追ってリビングへ。
ワンフロアで作られた広々とした空間は、明るく、シンプルな家具が配置されていて、居心地が良さそうだ。
「あ、椿先輩! いらっしゃい! 俺のお嫁さんの紅と、お姫さまの紫だよ」
蒼は、赤ちゃんを抱いた女性と一緒にソファに座っていたが、素早く立ち上がり、満面の笑みで紹介する。
紅さんは、目鼻立ちがはっきりした美人。少々取っ付きにくそうに見えるが、笑うと優しい雰囲気になる。
「こんにちは。雨宮 椿です」
「こんにちは、紅です」
立ち上がろうとする紅さんを制し、こちらから歩み寄った。
「どうぞ、座ったままで。紫ちゃんを見せてもらってもいいかしら?」
「もちろんです」
「見るだけじゃなく、抱っこしてあげてよ? はい、どうぞ」
蒼は、紅さんの腕からひょいっと赤ちゃんを取り上げると、いきなりわたしに押し付けた。
「えっ」
渡されるままに抱いた途端、甘いミルクの香りに包まれる。
「おなか一杯になったから、しばらくごきげんのはず」
泣き出すことはなさそうだと、ほっとする。
見下ろす赤ちゃんは、蒼の血を色濃く受け継いだらしく、まったく日本人らしいところがない。髮は紅茶色で、瞳の色はチョコレート色。
目が大きくクリっとしているのが、唯一紅さんを思わせる。
わたしと目が合うと、にかっと笑った。
(か、かわいい……かわいすぎるっ!)
瑠璃の子どもたちもかわいかったが、紫ちゃんは「天使」という言葉がぴったりの愛くるしい赤ちゃんだった。
しかも、ピンクのよだれかけにも白と黒、二匹の猫が刺繍されている。
(もしかして……ベビー服まで蒼がデザインしたの?)
才能あふれる後輩の愛情は、チョコレートより濃厚なようだ。
「ね? 世界で一番かわいいでしょ? 椿先輩」
「うん、すっごくかわいいわね」
「でしょ? でしょ? 俺と紅の子どもだからね!」
「そうね」
それから、蒼は紫ちゃんのどんな仕草がどれくらいかわいいかについて、五分ちかく熱弁をふるい、とうとう紅さんに叱られた。
「蒼、いつまで紫を押し付けておくつもり? 紫を引き取って。椿さん、どうぞお座りください。いまお茶を用意しますから。あ、緑川くんも飲む? 飲むわよね?」
「はいっ! 飲みますっ!」
テキパキと蒼に指示し、さりげなくこの場を立ち去ろうとしていた緑川くんを引き止め、迷いなく次の行動へ移る。
そんな紅さんは、ゆったりとしたワンピース姿より、スーツを着てバリバリ働く姿が似合いそうだと思いかけ、涼から聞いた話を思い出した。
「そういえば……紅さんって『KOKONOE』の社員だと聞いたのだけれど?」
「そうだよ。しかも……気に食わないことに、あの人の部下」
いつも愛想のいい蒼が、珍しくしかめっ面になる。
「あの人って?」
「先輩の元夫」
「え?」
「雪柳……ぶちょーだよ」