二度目の結婚は、溺愛から始まる

渋々、肩書を付け足した感いっぱいだ。


「……ええと……つまり、財務経理部ってこと?」


驚くわたしに、蒼はさらに追い打ちをかける。


「そうだよ。大体、先輩があの人をフッたりするから、血迷って紅にプロポーズしたんだよ! 紅が復職するまでに、ちゃんと捕獲しておいてよねっ!?」


(プロポーズ……? 蓮がプロポーズした部下って……)


「蒼っ! いきなり何を言い出すのよっ!? 椿さんに、失礼でしょうっ!?」


ちょうどお茶を持って戻って来た紅さんが、蒼を叱りつける。


「失礼じゃないよ! だって、あの人が紅にプロポーズしたのは、本当のことでしょ?」

「それはそうだけれど、あれには色々と事情があって……」

「椿先輩と離婚してなければ、そんなことしなかったんだ」


蒼の言っていることは、もっともだ。
でも、離婚しなければ、蓮が彼女に惹かれることはなかったとは言い切れない。

結婚していたって、心変わりすることはある。
結婚してから、本当の気持ちに気づくことだってある。


「あの、わたし……」


予想外のことばかりで、何と言ってこの場を治めればいいのか、とっさに判断できなかった。

とりあえず、立ち去るのが一番手っ取り早いと思って腰を浮かしかけた時、紅さんの冷ややかな声が聞こえた。


「蒼。紫を連れて、散歩して来て」

「え?」

「緑川くんも一緒に」

「は、はい」

「紅っ!」

「蒼も緑川くんも、邪魔。女同士の話があるの」

「でもっ!」

「でも……? 何か文句あるの? 蒼」

「……いいえ。ありません。行こうか、紫」


冷たくあしらわれた蒼は、しょんぼりした様子で紫ちゃんを抱き、部屋を出て行く。


「緑川くん、ごめんね? 蒼と紫をお願い」

「いいえっ! 椿先輩とゆっくりお話ししてくださいね?」

「ありがとう」


年下の夫と友人を追い出すお手並みは、鮮やかだった。

きっと、仕事ができる人なのだろう。
華やか、というよりは、凛とした、という形容詞が似合いそうなところ。
意思が強く、それでいて女性らしい気遣いや繊細さも持ち合わせているところ。

そんなところが、あの人――橘 百合香に似ていると思った。

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