二度目の結婚は、溺愛から始まる
(蓮が、惹かれるのも無理はないわ……)
まさか、蓮がプロポーズした相手に遭遇するなんて――しかもそれが蒼のお嫁さんだなんて思ってもみなかったが、彼女がわたしよりもずっと魅力的な人であることに、ある意味ほっとした。
納得できずに嫉妬で苦しむより、敵わないと白旗を上げてしまう方が、ダメージは少ないし諦めもつく。
玄関のドアが閉まる音を待って、紅さんは背筋をぴんと伸ばして言い切った。
「蒼が言ったことが、すべてではありませんから」
まっすぐにわたしを見据える彼女は、誠実な人なのだろう。
きっと、わたしが質問すればとことんまで答える。
けれど、下手に気を遣われても、踏み込み過ぎても、この先やりにくくなる。
蒼とは気のおけない先輩後輩の仲だが、彼女とはクライアントとデザイナーという関係だ。
どうにか仕事用の笑みを顔に貼り付けて、その話題を持ち出す必要はないと示した。
「彼があなたにプロポーズしたことは、本人から聞いています。わたしたちは離婚していて、彼が誰といつ再婚を考えようが自由です。ですから……どうぞお気遣いなく」
「あの、でも……」
「蒼は紅さんにベタ惚れだから、プロポーズされたと聞いて嫉妬しているんでしょうね。でも、あの人は、周囲の状況や相手の気持ちを思い遣れる人です。いくら未練があっても人妻を略奪するようなことはしません」
蓮の気持ちが、いまも紅さんにあるとまでは思わないが、プロポーズしたほどだ。彼女のことを気にかける気持ちは「単なる部下」に対するもの以上だろう。
敏感な蒼はそれを感じ取って、威嚇したくなるのではないかと思った。
(蓮は、優しすぎるのよ……)
「蒼も、それはわかっていると思います。ただ……雪柳部長は、蒼にとって『理想の男性』なんだと思うんです。憧れと羨望、嫉妬が入り混じっているというか。どこかで、自分は敵わないと思っているから、反発してしまう」
「要するに、子どもってことね」
「そうかもしれません。でも……」
紅さんは、ふっと肩の力を抜くように息を吐いて、にっこり笑った。
「わたしは、そういう蒼が好きなので」
彼女のあっけらかんとした言葉につられて、笑ってしまった。
「そこが蒼らしいってことね」
「大人ぶったり、物わかりのいいフリをされるより、ダダをこねられたほうがわかりやすくて、対処しやすいですから」
「確かに……そうかも」