二度目の結婚は、溺愛から始まる
似ているけれど、ちがうもの
紫ちゃんを連れた蒼が、恐る恐るリビングに姿を見せたのは、出て行ってからきっかり三十分後だった。
「……紅、話は終わった? 入ってもいい?」
「もう終わったから、大丈夫よ」
「蒼! 会場デザインについても、大まかなところは決まったわよ。一週間以内に、最終案を作るわね?」
彼女と蓮の話を聞いた後、わたしは本題である結婚式の会場デザインを紅さんに見せた。
紅さんが選んだのは、準備や片付けが簡単で済む、一番シンプルなもの。
会場となる庭へのアプローチだけは少し凝ったものにするが、極力余計な飾りは排し、ありのままの庭を楽しんでもらう――そんな彼女の希望をヒアリングし、より詳細なデザインを一週間以内に提示することで話はまとまった。
「ありがとう、椿先輩」
入室を許された蒼は、すっかり寝入ってしまった紫ちゃんをベビーベッドに置き、ソファー越しに紅さんの背に抱きつく。
「紅、もう怒ってない?」
「怒っていないわよ。わたしは紫とちょっとお昼寝するから、蒼は椿さんにちゃんとバーベキューをごちそうして」
「一緒にお昼寝したいけど、我慢するよ。行こう? 先輩」
「紅さん、すてきな結婚式になるよう精一杯お手伝いしますね」
「よろしくお願いします。それと……わたしたち同い年ですよね? だから、敬語はいらないと思うの」
「……そうね。そうさせてもらうわ」
ほんのわずかな時間話しただけでも、サバサバした紅さんとは気が合いそうだと思った。
蓮と彼女がこの先も一緒に働くことに、わだかまりや不安は感じない。
彼女はきっと、蒼との関係が壊れそうになったとしても、誰かに慰め、癒してもらうことなどしないと自信を持って言い切れる。
「ね? 俺の言ったとおりでしょ? 椿先輩。紅と椿先輩は気が合うと思ったんだ」
ドヤ顔をする蒼に、呆れ顔で首を振る彼女。
人前でも、自然体のまま振る舞える二人は、すてきな夫婦だと思う。
(ぜひとも、楽しくて幸せな結婚式にしなくちゃ。そのためにも……蒼に確かめておきたいことがある)