二度目の結婚は、溺愛から始まる
「やっぱり、椿先輩に頼んで正解だったよ! 今日は、たくさん食べて!」
「もちろん、そのつもり。でも、食べる前に……」
上機嫌の蒼と一緒に家を出たわたしは、玄関のドアが閉まるなり、即座に彼の後ろ襟を摑まえた。
「ちょっと顔貸して」
「え? でも、お肉……」
「いいから」
有無を言わさず、ガレージの奥へ引きずって行く。
バーベキューをしている人たちからは死角になっているし、邪魔も入らないはず――が、そこにはビールを抱えた緑川くんがいた。
「あれ? 椿先輩、どうしたんですか? お肉は、あっちですよ?」
怪訝な顔をして、賑やかな笑い声のする方を指さす。
「ちょっと蒼と話があるの」
「蒼と?」
「そう。二人で……蒼っ!」
緑川くんと話している隙に蒼が逃げ出そうとしたので、行く手を「壁ドン」で塞ぐ。
「……逃げる気?」
「に、逃げてないよっ!」
「ふうん?」
「あのう、椿せんぱ……」
「緑川くん。あっち、行っててくれる?」
察しのいい緑川くんは、わたしの邪魔をしてはいけないと瞬時に悟った。
「り、了解です。椿先輩の分、お肉もビールも確保しておきますっ!」
「ありがとう」
にっこり笑ってお礼を言い、去って行く緑川くんの背を恨めしそうに見つめる蒼を見上げた。
「ねえ、蒼。いつ、わたしと蓮のこと知ったの?」
大学時代の友人で、蓮と直接会ったことがあるのは瑠璃と一ノ瀬兄妹だけ。
蒼たち後輩は、わたしたちが交際していたことも、結婚したことも知らないはずだった。
『KOKONOE』の社員にしても、蓮が結婚していたことを知っているのは、ごく一部の人のみ。しかも、七年も前のことだ。わざわざ蒼に教える人間がいたとは思えない。
「それは……」
蒼は、視線をさまよわせていたが、やがて観念したようにぼそぼそと答えた。
「結婚式の招待状を準備してた時、噂で聞いた先輩の彼氏の名前が、確か『蓮』だったなって、ふと思い出したんだ」
「……それで?」
「気になって、涼さんに確かめてみたら、実は先輩がその彼氏と結婚して、でも三か月で離婚したって……」
(涼っ! 個人情報を漏らしてるんじゃないわよっ!)
「それで、あの人もバツイチだったなって思って、『KOKONOE』にいる紅の友だちに、いつ頃離婚したのか訊いたんだ。そしたら、ちょうど先輩が離婚したのと同じ頃だって言うから……。もしかして、偶然じゃないかもって」
(相変わらず、一足す一を三にも四にもできる蒼の勘の良さが、忌々しい……)
「で? どうしてわたしに会場デザインを依頼しようと思ったの?」
何も考えていないように見えて、蒼は用意周到だ。
今回、蒼がわたしに無茶ぶりをしてきたのが、単なる偶然だとは思えなかった。
「もちろん、紅の好みから判断して、先輩のデザインが気に入るかもって思ったからだよ! だって……」
イライラしながら、どうやって蒼を締め上げようかと考えていたわたしは、続けて語られた思いがけない言葉に、目を瞬いた。
「先輩と紅は、似ているから」