二度目の結婚は、溺愛から始まる
「紅も先輩も、意地悪なこととか、ずるいこととか、したくてもできないでしょ? 自分が辛くても、正しいことをしようとする。泣きごとも言わず、歯を食いしばって耐えちゃう。しかも、その姿を隠したがるんだよね」
(わたしは……そんな出来た人間じゃないわ)
ずるくて、卑怯な気持ちをもっともらしい理由をつけてごまかした結果、とても大切な人を傷つけて、とても大切なものを失った。
そして、自分が引き起こしてしまったことに耐え切れず、押しつぶされて逃げ出した。
どんなに後悔しても、取り返しのつかない過去。
時が経っても、消えることのない罪。
その重さに打ちひしがれて、俯きかけたわたしの頭上で、蒼は「でもね」と呟いた。
「強がっている姿って……たまらなくかわいいんだよね。ドロドロに甘やかしたくなる。俺だけに、弱いところを見せてって、言いたくなる。それでもって、甘えてくれたりしたら……すごく嬉しいんだ。餌付けしていた野良猫が、ようやくなついてくれて、撫でさせてくれたときみたいに」
そう言う蒼は、チョコレート並みに甘い笑みを浮かべている。
「だからさ、あの人が椿先輩を忘れられないのもわかるんだ。ムカつくけど、あの人は紫の命の恩人だからね。借りは返しておきたいし。先輩が捕獲しておいてくれないと、俺が安心できないしっ!」
「…………」
(結局は、ソコなわけね……。つまり、わたしを餌にして、蓮を紅さんから引き離したかった、と……)
呆れるより、感心した。
ここまで自己中心的だといっそ清々しい。
「ねえ、椿先輩。認めるのは悔しいけど、あの人顔も頭もいいよね? 何が不満なの?」
「不満? 不満なんかないわよ。蒼が言うとおり、ハイスペックだし、大人だし。そうね……」
(蓮に、不満はない。あるとすれば……)
「その横にいるわたしが、不満なのかもね」
必死に蓮の気を引こうとしていた頃から、わかっていた。
蓮には、彼と同じくらい大人で、落ち着いた美女が似合う。
わたしとちがい、バカな真似などしない女性が相応しい。
たとえば、彼の部下である彼女や元同期のあの人のような――。
「は? 何言ってるの? 不釣り合いなんかじゃない。先輩は、あの人にぴったりだよっ! 自信もって!」
たまには蒼もかわいいことを言う、と思った。
が、それはまちがいだったと直後に思い知る。
「だって、あの人世話好きだよね? 椿先輩は、お世話しがいあるから大丈夫! それに、先輩はかわいいし、面白いし、一緒にいて退屈しないし、きっと毎日あの人に笑いを提供できるから、いい奥さんになるよ!」
「笑いを提供って……わたしは、芸人じゃないのよっ! 褒められてる気が、まったくしないわっ!」
「ええっ!? こんなに褒めてるのに?」
「…………」