二度目の結婚は、溺愛から始まる

ナンパ男の問いに、愛華がにっこり笑って頷いた。


「マジね。だって、椿は一緒にあのカフェを立ち上げた共同経営者だから」

「それに、ナギさんが癒されるって言ってた、『KOKONOE』のエントランスも椿先輩のデザインだからねっ!」


蒼の追加情報がダメ押しとなったのか、茫然とした表情で呟く。


「嘘だろ……」

「あいにく、嘘じゃないわよ」

「どうしてバリスタなんかしてるんだよ?」

「なんかって、何よ?」

「もったいないだろ! 才能をドブに捨ててるようなものだっ!」

「わたしは、好きでバリスタの道を選んだの。まだまだ修行が必要だけれど、後悔なんかしていないわ」

「とにかくっ! 椿先輩のデザインを見て、引き受けるかどうかを決めたらどうですか?」


緑川くんが差し出したデザイン画を受け取ったナンパ男は、しばらくじっと見つめていたが、無言でくるくると巻き戻し、図面ケースへ入れた。

気に入らないと言われても、かまわない。
引き受けてもらえなくとも、自分で作ればいいだけだ。

返してもらおうと手を差し出す。

しかし、ナンパ男は一瞬迷うような素振りを見せたものの、なぜか図面ケースを自分の肩にかけた。


「ちょっとっ!」

「原案で、一度作ってやるよ。それから細部を詰めた方が、やりやすいだろう」

「え……?」


一瞬、何を言われているのか理解できなかった。


「引き受けてやるって言ってるんだ」


上から目線で恩着せがましく言うのが、気に食わない。


「嫌なら、無理しなくていいわよ」

「ぜひ、やらせてくれ」

「さっきまでと、ずいぶん態度がちがうじゃないの」

「憧れのデザイナーだとわかったんだ。そりゃ、変わるさ」

「調子が良すぎるわ」

「素直と言ってくれ」

「それで……結局、引き受けてくれるんですよね? ナギさん」

「ああ」


緑川くんの念押しに、にやりと笑ったナンパ男は「ただし」と付け加えた。


「椿がデートしてくれたら、だ」

「は?」

「食事、デートスポット、ドライブ、一緒に過ごせるなら、何をしてもいい。お望みなら、ベッドの上で一日中過ごしてもいい」

(ベッドの……上でっ!?)

「な、な、何をっ……」

「喜んでもらえる自信はある」


涼しい顔で無視したいところだが、思わせぶりな視線に、うろたえてしまう。


「かまわないだろ? 指輪もしていないし、男がいるようにも見えないし」

「だからって、どうして……」

「興味がある相手に近づきたいと思うのは、特別なことじゃないだろ。出会った縁を無駄にするのは、よほどのバカだ」

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