二度目の結婚は、溺愛から始まる
迷いのない視線と自信たっぷりの言葉には、これまで自分の思うように生きて来たプライドが覗く。
でも、けっして頑なではない。
どんなに困難なことがあっても、しなやかに乗り越えていく。
ナンパ男には、そんな強かさを感じる。
「ナギさん、椿先輩は独身だけど、独身じゃないって言うか……」
蒼が蓮のことを口にしかけたまさにその時、ガレージへ向かう見覚えのあるシルバーの車が視界を過った。
(あれは……蓮っ!?)
「あら、いいところへ蓮さんが来たみたいね?」
愛華の言葉に、ナンパ男が顔をしかめる。
「蓮?」
ガレージの前で停まった車から降り立ったのは、予想通り蓮だった。
目が合ったが、その表情は普段と変わらず、何を考えているのかわからない。
「椿に、お堅いビジネスマンなんか似合わないだろ」
ナンパ男の言葉に深い意味はないとわかっていても、そのひと言が胸を抉る。
「……大きなお世話よ」
「どうして、アイツはこっちを睨んでるんだ? 椿にフラれたのか?」
「ちがうわよ。蓮は……」
適当にごまかそうかとも思ったが、ナンパ男の興味を削ぐには、本当のことを言うのが一番だと思い直した。
「わたしの元夫よ」
「……は?」
「わたし、バツイチなの。世間知らずの箱入り娘じゃないのよ。ちょっと甘い言葉を囁けば、思い通りにできるなんて思わないで」
「べつに、俺は……」
憮然とした顔になったナンパ男が何か言いかけたが、蓮がこちらへ向かって来るのを見て、口を噤んだ。
蓮は、ナンパ男とは、対照的。
身体にぴったりと合った春らしい淡いブルーグレーのスーツを着ていて、きちんと髪も整え、髭だって、もちろん剃っている。
とても出張帰りとは思えない爽やかさだ。
バーベキューパーティーには不似合いな堅苦しい恰好も、悠々とした態度が違和感を簡単に吹き飛ばしてしまう。
「こんにちは! 雪柳部長。ご無沙汰しています」
緑川くんがにこやかに挨拶をすれば、愛華も後に続く。
「こんにちは、蓮さん。今度椿とお店に寄る時は、事前に言ってくださいね? サービスしますから」
「ああ、ありがとう。そうさせてもらうよ」
愛想よく挨拶を返し、蒼に目を向けるとにやりと笑った。