二度目の結婚は、溺愛から始まる

全員の視線が向かった先には、紅さんに抱かれて暴れまくる紫ちゃんがいた。


「ご、ごめんなさいっ! 部長の声が聞こえた途端に、騒ぎ出して……」


くるっとした大きな目は…………蓮に釘付け。
紅さんが謝っている間にも、激しく身じろぎし、いまにも腕から落ちそうだ。


「そんなに気に入られるようなことをした覚えはないんだが……」


困惑顔で蓮が抱き上げた途端、紫ちゃんはあきらかに嬉しそうな笑い声を上げた。


「紫の浮気者……」


恨めしそうに呟く蒼に、紅さんが苦笑する。


「命の恩人だって、わかっているのよ」

「そうなのか? 義理堅いな。それにしても……ちょっと見ないうちに、ますます美人になったんじゃないか? ん?」


紫ちゃんを抱く蓮は、とても優しい顔をしている。


(ううん……優しい、という言葉では足りない。メロメロだわ……)


柔らかそうな頬に息を吹きかけたり、小さな手を食べるふりをしたりして、紫ちゃんを笑わせている。

普段の蓮からは想像できないくらい、「パパ」ぶりが板についていた。


「紫、もういいでしょう? 部長を解放してあげて」


しばらくして、紅さんが優しく諭して抱き戻そうとしたが、蓮のネクタイをにぎにぎしていた紫ちゃんは、なんとそれを口に入れた。


「やめてーっ! 紫っ! それ、シルクっ! シルクだからっ!」


紅さんの懇願虚しく、シルクのネクタイはすでに「でろんでろん」だ。

蓮は、すっかりネクタイに魅了されている紫ちゃんを見下ろし、諦めの溜息を吐いた。


「どうやら、プレゼントするしかないようだな」

「すみません、部長……」


会話の内容を理解しているはずはないが、紫ちゃんは「にたあっ」と笑う。


「三か月で男のネクタイを外す術をマスターするなんて、将来はとんでもない小悪魔になりそうだ」


目を細めて笑いながら、ネクタイを緩める蓮。
その姿に、堪らない気持ちになった。


(わたし……ちっとも、わかっていなかった)


他人の子どもでも、そんな風に慈しむことができるのだから、自分の子どもなら溢れんばかりの愛情を注ぐだろう。


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