二度目の結婚は、溺愛から始まる
わたしが、蓮の人生から奪ってしまったのは、二人の子どもの命だけではない。
子どもに囲まれた家庭を築き、幸せな暮らしを送る。
そんな蓮の未来をも、奪ってしまったのだ。
(わたしと結婚しなければ、いまごろは父親になって、自分の血を分けた子どもを慈しみ、その成長を見守る幸せを感じていたかもしれないのに……)
「椿?」
こちらを見下ろすナンパ男は、顔を歪めて呟く。
「なんて顔してるんだよ」
ハッとして笑みを取り繕うとしたが、蓮と目が合った。
その表情が歪んだのは、自分ではなく、きっとわたしの痛みを思ったから。
(ちがうっ!)
「ちがうのっ! 蓮のせいじゃないの。蓮が思っているようなことじゃなくて……そうじゃなくてっ……」
リハビリ中は、妊婦や赤ちゃんを見るのが辛くて、できる限り避けて暮らしていた。
でも、いまはそんなことなど微塵も思っていない。
瑠璃のおかげで、克服できた。
両親を早くに亡くした瑠璃とジーノには、無条件に頼れる肉親がいない。
妊娠した彼女をサポートするのは、主にわたしの役目だった。
言葉や文化の壁にぶつかりながら、三人で力を合わせ、出産にも立ち会った。
生まれたばかりの赤ちゃんをこの腕に抱いた時、羨ましいとか、辛いとか、苦しいとか――彼女と彼女の赤ちゃんに対して抱いてしまうかもしれないと恐れていた感情は、一切湧いて来なかった。
無事に生まれてきてくれたことが、ただただ、嬉しかった。
わたしが失ってしまった命を、瑠璃が代わりに産んでくれたような気がした。
「何、言ってんだよ? 椿。おまえがそんな顔してるのは、どう見てもそいつのせいだろ」
わたしを心配し、気遣ってくれているのだとわかっていたが、いまはその優しさをありがたいと思う余裕がなかった。
「あなたには関係ないことよ」
紫ちゃんを――赤ちゃんを見たから泣いたのではないと説明するには、事故に遭い、流産したことも話さなくてはならない。
こんな場所で、しかも初対面の人間に、話す気にはなれなかった。
「それを決めるのは、俺だ」
「わたしはっ……」
踏み込んでほしくないと、声を荒らげそうになったわたしを呼ぶ声がした。
「椿」
紫ちゃんを紅さんに引き渡した蓮が、手を差し伸べている。
「こっちへ来い」
堪えていたものが溢れそうになり、しがみつくようにして、その手を取った。