二度目の結婚は、溺愛から始まる

蓮は顔をしかめ、小さな声でぼそっと呟いた。


「どうして、おまえはいつも煽らずにはいられないんだ」


車一台、人ひとり通らない田舎道には雑音も騒音もない。
小さな呟きだって、しっかり聞こえる。


「煽ってなんかないわっ!」

「……言い方が悪かった。煽るんじゃなく、うぬぼれさせるんだ」

「うぬぼれさせる……?」


どうしてそんなことになるのかわからず、首を傾げた。


「椿にかかると、自分は欠点一つない男だと錯覚しそうになる」

「そのとおりじゃない」


蓮の魅力的なところを挙げろと言われたら、いくらでも思いつく。
けれど、欠点を挙げろと言われても、何も思いつかない。

ほかの人間が「欠点」だと言うところでも、きっとわたしの目には魅力的に映っている。


(蓮がこんなに完璧じゃなければ、わたしだってもうちょっと自信を持てたのよ)


「だから、おまえのそういうところが……」


蓮が説明しようと口を開きかけた時、スマホの無遠慮な着信音が邪魔をした。

画面に表示された母からの返信は、「早く来て~!」だ。
義父が、朝から首を長くして待っているらしい。


「菫さんか?」

「う、うん……わたしたちが来るのを待ちわびているみたい」

「寄り道している場合じゃなかったな。行こう」


蓮は、トランクに日本酒を積み込むと見送る店主に軽く頭を下げて、車を発進させた。


「はっきり到着時刻を伝えなかったせいで、だいぶ待たせてしまったんじゃないか?」

「お母さまは、そんなことで目くじら立てたりしないわよ」


(それにしても……タイミングが悪すぎるわ。お母さま)


剥がれかけていた蓮の「大人の余裕」は、すっかり元通り。話題を戻して会話を続けるにも、時間が足りなかった。

母たちの住まいまで、あと十分もかからないと思われる。


(とりあえず帰りまで、ううん、家に帰るまでは、普通に過ごそう。でも、絶対今日中に話す! 先延ばしにしない! それから……寝落ちしない!)


気を取り直し、気合を入れ直し、進むにつれ生い茂る笹薮で狭まる道の先に目を凝らす。

母たちの住むコテージは、道路脇ではなく私道を入った林の中。私道の入り口には、目印となる看板を立ててあると言われたが……


「あった! あれがそうじゃない?」

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