二度目の結婚は、溺愛から始まる

母に促され、わたしたちはそのまま縁側から家の中へ入った。

板張りの縁側の奥は、中央に囲炉裏が設えられた十畳ほどの居間になっている。
むき出しの梁や畳、障子など内装は純和風。家具や照明などは「現代」を感じさせるものの、デザインはあくまで「和風」だ。


「もとは古民家のようですが、雨宮さんが改修されたんですか?」

「そうだよ。かなり手を入れた。初めて訪れた時には、いまにも崩れ落ちそうだった。作品のモチーフにするつもりが、描いているうちになんだか住みたくなってしまってね」

「愛着が湧いたんですね。ところで、もう次の作品に取りかかっているんですか?」

「まだだけど、今度は人物画を描こうかと思っているんだ」


もとから口数の少ない義父も、蓮の話術にかかれば饒舌になる。
家のこと、新たに取りかかろうとしている次の作品についてなど、別人かと思うほどペラペラ喋っていた。

そんな二人の様子に、母と顔を見合わせ、くすりと笑った。


「椿とわたしは、女同士で楽しみましょ」

「そうね」


母は昼食の準備をすると二人に声をかけ、自慢の台所へわたしを案内した。


「あのね、椿。なんと、ここには本物の『かまど』があるのよ!」

「かまど……?」

「かまどで炊くご飯は、ものすごく美味しいのよ?」


土間に造られたキッチンの片隅には、昔話に出て来るかまどそのものが、でんと居座っていた。
すでに薪をくべられて、セットされた羽釜や鉄鍋からは、いい匂いが漂っている。


「今日のメニューはね、タケノコご飯でしょ、ふきのとうのお味噌汁。フキの煮物に、お魚は今朝釣ってきたヤマメ。タラの芽は天ぷらにしようと思っているの。どれも新鮮採れたてよ? お水も近くの湧き水を汲んで来たの」


山菜取りに励み、魚を釣り、湧水を汲む――常に、社長夫人に相応しい小綺麗な恰好をし、移動はタクシーか運転手付きの車だった頃とは、大ちがいだ。


「そこに置いてある野菜と山菜は、お持ち帰り用ね。山菜は、ちゃんと灰汁抜きもしてあるから、そのまま料理できるわ」

「ありがとう、お母さま」


風情たっぷりのザルの上には、菜の花やアスパラ、そら豆など多種多彩な野菜がある。
山菜は、タケノコ、わらびなどが瓶詰になっていた。

もともと料理上手な母だったが、ここへ来て山菜の調理方法も会得したようだ。

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