二度目の結婚は、溺愛から始まる


「椿、タラの芽を料理したことはある?」

「残念ながら。教えてくれる?」

「もちろんよ。今度は、椿がわたしにイタリア料理を教えてね?」


久しぶりに母と並んで料理をするのは、楽しかった。

母は、子どもは「のびのび育つべき」と思っている人だが、わたしと柾に「生活力」を身につけさせることにだけは、こだわった。

口ぐせは、『できないより、できたほうがいいでしょう?』。男であろうと女であろうと、料理、洗濯、掃除はできて当たり前という考えの持ち主だ。

反抗期を迎え、「キャベツの千切りなんて、できなくても大した問題ではない」と言い出した柾に、「キャベツの千切りすらもできないなんて、女の子によっぽど不器用でエッチも下手だと思われるわよ」と言い放ち、容赦なく撃沈させていた。


「ここには、柾も時々遊びに来るの?」

「いいえ。あの子は、田舎に魅力を感じるタイプではないもの。お酒も食べ物も絵も家具も、全部洋風が好きなのよ。いったい、誰に似たのかしらね」

「カッコつけてるだけよ」

「そうねぇ。そんなことだから、未だにきちんとしたお付き合いができないのね、きっと。生涯独身を貫くなんて言ってるけれど、お義父さまが許すはずもないし……困ったものだわ」


兄の女性遍歴について、詳しいことは知らないが、とっかえひっかえ……と言うほどではなくても、一年以上続いた相手はいないはずだ。


「そう言えば、お義父さまから、椿が自分のものをほとんど捨てようとしているが、いいのかって訊かれたのだけれど?」

「お祖父さまの家に泊まった時、部屋を片付けたのよ。お母さまが欲しがるようなものは、なかったと思うんだけれど……」

「そうね。椿が小さい頃に描いた絵とか、大事なものは離婚したときに、全部持って出たから。二度と九重の敷居は跨げないし、とにかく気になるものは全部持っていくことにしたのよ」

「……そうだったの?」


祖父は、元嫁の母のことをいまでも気にかけているし、頻繁に連絡を取り合うほど二人は仲がよい。てっきり、九重の家にも出入りしているのだと思っていた。

「いくらお義父さまがよくしてくださっても、そこまで甘えるわけにはいかないわ。だって、新しい奥様がいらっしゃるかもしれないんだし……」

「お父さまみたいな人は、結婚に向かないのよ。お祖父さまだって、二度は許さないわ」

「あのね、椿。お父さま……あの人は、わたしと上手くいかなかっただけで、別の人となら上手くいくかもしれないでしょう? 離婚の直接的な原因は、お父さまの浮気だけれど……わたしにも責任があるのよ」

「お母さまに? まさかっ!」

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