二度目の結婚は、溺愛から始まる

「お母さま……」

「そんな顔しないの! 確かに、離婚した時には落ち込んだし、自分のどこがいけなかったのかと考えてばかりいたわ。でも、しばらくして気づいたの。お父さまの言ったことは、半分当たっているけれど、半分外れているって。『わたし』は、消えてなくなったわけではなかった。ただ、隠れていただけなのよ」


にっこり笑う母に、父の浮気に悩み、苦しんでいた頃のような儚さや脆さは見当たらなかった。


「いまはね、完璧ではない自分も大事にしてあげなくちゃいけないって、思えるようになったの。そんなわたしを好きでいてくれる人を悲しませたくないから」


母は自分と義父のことを話しているはずなのに、まるでわたしと蓮のことを言われているような気がした。

わたしは、蓮の気持ちを真正面から受け止められなかった。心のどこかで、蓮みたいな人が、わたしなんかを本気で「好き」になるはずがないと思っていた。


「ひとを好きになるよりも、自分を好きになることのほうが、難しいのかもしれないわね。でも、椿は七年前より、ずっとすてきな女性になった。背伸びして、追いつこうとしなくても、雪柳さんと十分並んで歩けるくらい大人になったわ」

「そう、かしら……?」


水仕事で冷たくなった手に、母の柔らかくて温かい手が触れる。


「椿のためだと言って、柾もわたしも……わたしたち家族は、雪柳さんに辛い選択を強いた。あの時は、ああするしかなかったと信じていた。けれど……時が経つにつれ、ふたりを離れ離れにしてはいけなかったんじゃないかと思うようになったの。本当の傷の痛みも深さも、同じ傷を負った者同士でなければわからない。ふたりで負った傷は、ふたりでしか癒せないのかもしれないって……」

「…………」


何も言えなかった。
口を開いた途端、嗚咽が漏れてしまいそうで。


「勝手なことを言っているとわかっているわ。でも、椿と雪柳さんには、ふたりで(・・・)幸せになってほしいの。わたしたちみんな、そう願っている」


わたしたちの離婚で傷ついたのは、当事者のわたしと蓮だけではない。
母や兄、祖父も心を痛めていた。

そのことは十分理解しているつもりだったけれど、実際にわたしたちのことをずっと気にかけてくれていたのだと知って、申し訳なさや嬉しさ、いろんな感情が湧き起こり、胸がいっぱいになった。


「久しぶりに椿と雪柳さんが一緒にいるところを見たけれど……相変わらず、とってもお似合いよ?」

「ありがとう……お母さま」


目の縁に溜まったものがこぼれ落ちないよう、優しく微笑む母へ慎重に作った笑みを返す。


「さあ、最後の大仕事にかかりましょうか!」

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