二度目の結婚は、溺愛から始まる
母の指示で、四人分にしては多すぎるくらいのタラの芽を次々高温の油へ投入する作業へ取りかかる。
揚げすぎてはいけないと言われ、忙しなく入れたり取り出したりを繰り返しているうちに、涙は引っ込んだ。
「いい出来具合ね! さ、運びましょ」
タケノコご飯、フキの煮物、ヤマメの塩焼き、タラの芽の天ぷら、菜の花のおひたし、ウドの胡麻みそ和え、ワラビの炒め物。
山菜の調理方法を訊いているうちに、実際作ったほうがわかるだろうということで、予定よりも少々品数が増えている。
「食べきれなかったら、お持ち帰りしてちょうだいね?」
「蓮はけっこう食べるから、残らないと思うわ」
出来上がった料理をせっせとお盆に載せていると、「あっ!」と母が声をあげた。
「そう言えば、椿にお願いがあったのよ! 忘れるところだったわ」
「お願いって?」
「お義父さまに手帳を見繕ってくれないかしら?」
「お祖父さまに手帳? いまごろ?」
文房具店に豊富な品ぞろえで手帳が並ぶのは、二月から三月。四月に入ったいま、人気のものはすでに売り切れてしまっているだろう。
「お気に入りだったものが製造中止になってしまったらしくて、買えずにいるみたいなの。もう仕事はしないから必要ないっておっしゃっていたけれど……いつまでも現役でいてほしいでしょう? だから、プレゼントしようと思うのよ。以前、雪柳さんが使っている手帳もよさそうだとおっしゃっていた気がするから、参考にして選んでくれないかしら?」
蓮がスマホやタブレットではなく、昔ながらの手帳を愛用しているだなんて、意外だった。
「訊いてみるわ」
「よろしくね?」
ずっしり重いお盆を抱えて居間へ行くと、そこでは紙と鉛筆を手にした義父が、縁側に座る蓮を描いていた。
「あら、まぁ……雪柳さんはお客様なのに、モデルをさせてたんですかっ!?」
「う、うん。雪柳くんは姿勢もいいし、和風な顔立ちの男前だから、こう、描きたい気持ちがムラムラと湧いてきてね……」
母の剣幕にタジタジとなりながらも、義父はぼそぼそと言い訳を連ねる。
「もう……困った人だこと。ごめんなさいね? 雪柳さん。じっとしているのは、疲れたでしょう?」
「いえ。描いていただけるなんて、光栄です」
「たぶん、ひと月くらいで完成すると思うから、出来上がったらあげるよ」
当然のごとくタダでプレゼントすると言う義父の言葉に、蓮は顔色を変えて首を振った。
「えっ!? 作品をタダで貰うなんて、とんでもないっ!」