二度目の結婚は、溺愛から始まる
蓮が焦る気持ちもよくわかる。
義父は、気軽に「タダ」で描いてほしいとお願いできる人ではない。
下書きの絵にも値がつくと聞く。
「気にしないでよ。義理の息子なんだから」
「あの、それは……」
(離婚しているから、蓮は義理の息子じゃないんだけれど……)
訂正すべきか、聞き流すべきか。
迷っているとくるりとこちらを振り返った義父が、目を輝かせる。
(なんだか、イヤな予感がする……)
「そうだ! 椿さんも描こう!」
「え」
「二人が寄り添っているような構図がいいね! うん、いい……すごくいい! さっそく……」
置きかけた鉛筆を再び手にしかけた義父を母がたしなめた。
「まずはお昼を食べてからにしてください」
「…………」
「しっかり、きれいに、美味しく食べてください」
じとっとした目で睨む母に負け、義父は名残惜しそうに鉛筆を置いた。
高名な画家に筆を置かせるなんて、母にしかできない暴挙だ。
昔から、母は食事の時に、食べること、楽しく会話すること以外は許さない人だった。
わたしと兄、祖父と母。四人で囲む食卓を懐かしく思いながら、山の幸に舌鼓を打つ。
蓮の箸は止まることを知らず、次々と料理を平らげて、タケノコご飯を二回、ふきのとうのお味噌汁を一回おかわりした。
「ごちそうさまでした。本当に、美味しかったです」
「お口に合ったなら、よかった。お土産に山菜もあるから、おうちでも食べてね? さっき、椿に作り方を教えたから」
「ありがとうございます」
「片づけはわたしがするから、椿は雪柳さんと一緒に、モデルになってあげてくれるかしら?」
「でも……」
ためらうわたしに、義父は熱の籠った視線を寄越す。
「一時間……ううん、三十分くらいでいいからっ!」
「椿は、大学時代にモデルのアルバイトもしていたんだよな? 慣れているなら、三十分くらいはかまわないだろ」
「そうだけど……」