二度目の結婚は、溺愛から始まる
二人がかりで頼まれては、断れない。
しかも、わたしは抵抗したのに、蓮があっさり義父の要求を承諾したものだから、縁側で膝枕するというなんとも恥ずかしい構図になった。
(時々、蓮には羞恥心がないんじゃないかと思うわ……)
再会してから、人前でイチャつくのに抵抗がないタイプなのだと初めて知った。
硬派そうな外見とのギャップで、余計にドギマギしてしまう。
「椿。そんな険しい表情で睨まれていては、うたたねできない」
「目をつぶっていれば見えないはずよ」
「膝から、緊張が伝わって来る」
「この状況でリラックスなんかできるわけないでしょう?」
「じゃあ……リラックスできるようなことをしようか?」
するりとわたしの胸元へ手を伸ばしながら、にやりと笑う蓮の額をピシリと叩く。
「蓮っ! 今日買ったあの日本酒、全部お祖父さまにあげるわよ?」
(わたしとの付き合いを反対されたくないなら、ちょっとはお行儀よくするべきじゃないの?)
「…………」
蓮は、わたしの本気を感じ取ったのか、ようやく目をつぶった。
こうして改めて間近に見れば、顔のパーツ一つ一つが整っているのがよくわかる。
(そういえば、蓮の寝顔なんて……あんまり見たことなかったかも?)
結婚していた時は、生活リズムが違っていたから、蓮がわたしより後に起き出すことは滅多になかった。
そよ風に乱れた前髪が、蓮の額に落ちかかる。
無意識に手を伸ばしてかき上げようとした時、薄い唇が開いた。
「そんなに見つめられたら、穴が開く」
「見つめてないわ」
反射的に答えてしまったが、蓮は軽く首を振る。
「朝からずっと視線を感じていた。話したいことがあるんじゃないのか?」
蓮から話を振ってくれるなんて、願ったり叶ったりだ。
義父は描くのに夢中だし、母は台所にいる。
よほどの地獄耳でもない限り、わたしたちの声は届かないはず。
昨日のことは、さすがにここで話す気にはなれなかったが、征二さんのカフェを手伝う件については、話してもかまわない気がした。
「征二さんのカフェを手伝う件なんだけど……」
「ああ。いつからだ?」
「まだ、詳しい話はしていないの。蓮の気持ちを聞いてから決めようと思って」
「俺はかまわないと言ったはずだが?」
「本当に? 休みがまったく合わなくて、食事を一緒にすることもなく、下手をしたらいつ帰って来て、いつ出て行ったのかもわからない生活を送ることになるかもしれない。柾が出張から帰って来て、わたしが蓮の部屋を出たら、それこそカフェ以外では、顔を合わせることもできなくなるわ。蓮は……それでもいいの?」
「…………」
二度と会わないつもりなら、忘れたいのなら、それでいい。
でも、「わたしたち」が幸せになれる道ではないと思う。
行きつく先が「再婚」ではないとしても、わたしたちがいま感じている気持ちは
きっと同じはずだった。