二度目の結婚は、溺愛から始まる
「わたしは、イヤよ。いま離れてしまったら、わたしたちの関係は不安定で、手探り状態で、中途半端なまま、置き去りにされる。もう一度始めようとした意味がなくなる」
「それは……柾が帰って来ても、出て行かないということか?」
「出て行ってほしいの?」
「いや」
即答した蓮は目を開け、じっとわたしを見上げる。
「わたしの思うようにさせてくれるのは、ありがたいし、そんな蓮の優しさが好きよ。でも、わたしと一緒にいることで、蓮に我慢してほしくないの。どちらか一方が幸せになるんじゃなくて、ふたりともが幸せになれる道を探すためにも、蓮の気持ちを聞きたい」
「それが……ただのワガママだとしても?」
「蓮だって、わかっているでしょう? わたしは、蓮が何を言っても、黙って言いなりになんかならない。蓮が百パーセント正しくても、言うことを聞かないことだって、あるわ」
「ああ、そうだった。いつも振り回されていた……」
しみじみした口調で呟く蓮の耳を軽く引っ張る。
「なんですって?」
「しつけが大変だったと思い返していただけだ」
「蓮!」
蓮は、睨むわたしから目を逸らし、呟いた。
「……日曜は、休みにしてほしい」
「……うん」
「椿のいない部屋に帰るのが嫌だ。夜のシフトに入るなら、週三くらいにしてほしい」
「うん」
「昼のシフトに入る時には、店に寄りたい」
「いいわよ」
「店の客に誘われても、断ってほしい。名刺も貰わないでくれ」
「そんなの、当たり前じゃないの。お客さまとプライベートで連絡を取り合うなんて、あり得ないわ」
「……俺の名刺は貰っただろ」
蓮が来るのを心待ちにしていた頃を思い出し、気恥ずかしくなって、今度はわたしが目を逸らした。
「あれは……蓮だったからよ。ずっと気になっていた人と話せて、お礼まで言ってもらえて、舞い上がっていたんだもの」
どうして、見ているだけで満足できたのか。
あの頃に比べれば、いまのわたしは随分欲張りになった。
見ているだけでは足りなくて、声を聞き、触れ合い、その気持ちを確かめたいと思ってしまう。
「……椿」
大きな手が頬に触れ、ハッとして視線を戻すと上体を起こした蓮が目の前にいた。
わたしの肩越しに居間へ向けられるまなざしを追いかけて、いつの間にか義父がいなくなっていることに気づく。
気を遣ってくれたのかもしれないが、終わりにするなら言ってほしかった。
母と義父の住む家で、元夫に膝枕するなんて、いくらなんでもくつろぎすぎだ。
「もう! 終わりなら終わりって……っ!?」
妙なところで気を利かせる義父への文句を口にしかけ、息が止まった。
正確に言えば、止められた。
蓮のキスで。
三日ぶりのキスは、啄むような軽いものでも、わたしを「クタクタ」にするのに十分だった。
「毎晩と休みに合わせるのと、どっちがいい?」
キスで鈍った頭では、蓮の問いを理解できなかった。
「いったい……何の話?」
「毎晩抱かれるのと、毎晩ではなく一度に何度も抱かれるのと、どっちがいいんだ?」
「なっ……」
「俺としては、毎晩と休みは好きなだけがいい」
「蓮っ!」
聞かれていないとわかっていても、恥ずかしすぎる。
むきになって抗議するわたしを笑いながら抱きしめた蓮は、小さな声で呟いた。
「本当は、どこへも行けないように閉じ込めておきたい」
「蓮……。それは、監禁よ」