二度目の結婚は、溺愛から始まる
どうして急にやめたのか。
抗議するように上目遣いで睨んだら、蓮は顔を背けてぼそっと呟いた。
「これ以上続けたら、キスだけじゃ済まなくなる」
「…………」
はっとして我が身を見下ろし、危うく悲鳴を上げそうになった。
いつの間にか、ブラウスのボタンが外れて下着が丸見えだ。
そう、真っ赤なレースの下着が。
慌ててボタンを留め、膝の上に置いていた鞄を胸に抱きしめる。
「こ、こんなところでキスしなくたって……いいじゃない」
恥ずかしさのあまり、自分が拒否しなかったことを棚に上げて蓮を責めてしまった。
蓮は、大人しく運転席に戻り、シートベルトをして言い訳する。
「……悪かった。………嫉妬した」
「嫉妬……?」
「俺には、椿の仕事を手伝うことはできないし、椿が尊敬できるような取り柄もない。そういう意味では、アイツのほうが椿に相応しい」
「…………」
「椿を繋ぎ止めておく自信がないんだよ」
意外な蓮の告白に、目を瞬く。
「……そんな風には、ぜんぜん見えないけれど」
「カッコつけてるだけだ。自信なさげな男なんて、みっともないだろ」
「そんなことないわ。どんな時でも蓮はカッコイイから大丈夫」
「…………」
疑いのまなざしを向けられて、背筋を伸ばして座り直した。
「いつだって、周りのことや相手のことを考えて、冷静に判断して、適切な行動ができるのは蓮のいいところだし、尊敬している。わたしのために、我慢してくれてありがとう」
「……本当は、アイツを出禁にしてくれと言いたかった」
「わかってるわ」
「いくら腕のいいバーテンでも、アイツの作った酒は飲みたくない」
「そうね」
「白崎の結婚式なんか、どうでもいいだろ」
「蒼はどうでもいいけど、紅さんのためにすてきな式にしてあげたいわ」
「どうして、家でじっとしていられないんだ?」
「昔から、落ち着きがないの。諦めて」
「簡単に言うな。少しは俺の気持ちを考えて、大人しくしていてもいいだろ」
「蓮は、落ち着きのないわたしが気に入ってるんだと思っていたわ」
「……その減らず口、時々無性にイラつく」
「イラつくのは、欲求不満だからでしょ」
「おまえは……どうして、煽らずにはいられないんだよっ!」
「だって……面白いんだもの。蓮の反応が」
わたしを振り返った蓮の顔には「いますぐ口を塞ぎたい」と書いてある。
年齢だけは、「大人の女」になったけれど、誘惑することには慣れていない。
でも、嫉妬するほどわたしのことを好きでいてくれる蓮の気持ちが嬉しいから、思い切ってその耳に囁いた。
「ねえ、蓮。早く帰って、キスの続きがしたいんだけど?」