二度目の結婚は、溺愛から始まる
初耳の情報に驚く。
「ランチ用に焼いている分の本数を増やしてもらえると思うんです。ランチのお客様は二組程度なのに、大きなオーブンでちょっとだけ焼くほうがもったいないじゃないですか。仕入れ価格を抑えてもらうための切り札もありますし」
「切り札?」
「わたしが、子どもたちに会える機会を増やすと言えば、大丈夫です」
なかなか強かな海音さんは、宣伝のことまで考えていた。
「新メニューについては、数量も限定にして、SNSを使って広めるのがいいと思います。そのあたりは、空也くんが上手くやってくれます。だから、征二さんは何もしなくても大丈夫です!」
「何から何まで検討済みなんだねぇ……海音ちゃん、自分のお店を出せるよ」
「一時は考えたこともありますけど、やっぱり家族を優先したいので、いまのところは融通の利くパートのシェフとして働く方が合っているんです。わたし、そんなに器用じゃないから、何もかもをカバーできないし。気長に行こうと思って」
海音さんほどの腕があれば、お店を開くことも、一流のレストランでフルタイムで働くのも可能だろう。けれど、いまは「家族」を優先させたいという彼女に、迷いも後悔も見当たらなかった。
「それに、いまは一流レストランではできない経験を毎日しているんです。栄養のバランスがよくて、かつ子どもが喜ぶメニューを勉強中。いつかお店を開くとしたら、家族で通えるような場所にしたいと思ってるので」
「家族で行けるお店かぁ。海音ちゃんらしいね。応援しているよ」
「わたしも! わたしも、応援してます!」
海音さんのように、温かくて優しい料理が味わえる場所。
そんなお店ができたら、通い詰めてしまいそうだ。
「ありがとう。ところで……サンドイッチのフィリングは、ランチメニューと被らないものがいいですよね? 征二さん。一種類じゃ、選択肢がなさすぎるから……パストラミ、チキン、シュリンプとか?」
「うん。最初は三種類くらいから初めて、様子を見ようか。味も、ビネガーとかわさび醤油とか、いろいろ試して人気のあるものに絞り込めばいい」
「じゃあ、明日はサンドイッチにしたものをソース付きで作って来ますね!」