二度目の結婚は、溺愛から始まる
本日のおすすめは、カフェラテ。
注文するのがほぼ女性のお客さまということもあり、サービスでラテアートをつけていた。
恥ずかしいと嫌がる男性もいるけれど、いまはほかにお客さまもいないし、楽しい気分になるようなものを出しても大丈夫だろうと思った。
(何がいいかな……)
身体に染み付いた手順でエスプレッソを淹れ、ミルクを泡立てながら考える。
(そうだ! 3Dにしてみよう)
犬と猫、彼はどちらが好きだろうかと首を捻り、何となく世話好きな気がして「犬」に決めた。
固めのフォームで、カップから覗く犬を作成する。
(うん、かわいい!)
こちらを見上げる犬は、愛嬌たっぷり。
我ながら満足のいく出来栄えだ。
「できました!」
征二さんに渡そうとしたら、ニヤリと笑われた。
「椿ちゃんが持って行きなよ」
「えっ!?」
よほど忙しい時でない限り、わたしがカウンターの向こう側へ行くことない。
あまり人目につきたくない、わたしの個人的な事情を知っている征二さんが、配慮してくれているおかげだ。
忙しいランチタイムにはサーブ担当のパートさんがいるし、再び店が混み始める夕方からは別のアルバイトが来る。
それ以外の時間帯は、征二さんがサーブがてらお客さまと雑談をするのがいつものスタイルだ。
当然、彼にだって、いつも征二さんがサーブしていた。
「でも、あのっ」
「きっと喜んでくれるよ。雪柳さん」
さらりと彼の名を口にした征二さんに驚く。
「……お知り合い、なんですか?」
「このお店を作る時、とてもお世話になった人なんだ。ほら、早く持って行って」
カウンター横の扉から押し出され、窓際の席へと歩み寄る。
(は、初めてお客さまにエスプレッソを出した時よりも緊張するんだけど……)
「……お待たせしました」
震えを堪えてトレーからカップをテーブルへ移す。
「ありがとう」
ちらりとわたしを見上げて微笑んだ彼は、テーブルの上に置かれたカフェラテを見た途端、切れ長の目を見開いた。
「え……」
あまりに凝視され、気に入らなかったのかもしれないと思い、小さな声で付け加える。
「あの……サービスで、ラテアートをつけているんです。もし、お気に召さなければ、淹れ直しますので」
わたしの言葉を聞いた途端、彼は首を振った。
「気に入らないなんて、とんでもない! こんなこともできるのかと、びっくりしたんだ。これ、君が作ったの?」
「はい」
「すごいな……さすがプロだね。飲むのがもったいない」
犬の顔を覗き込んで、くすりと笑う。