二度目の結婚は、溺愛から始まる

ここまで出来上がっていれば、あとは自分でもできると言おうとしたら、ひょいっとタブレットを取り上げられた。


「これは、俺の作品だ。勝手に手を加えてほしくない」

「でも、それ、わたしのデザイン……」

「デザインしたのは椿でも、CGを作ったのは俺だ。どうしても自分でやりたいというなら、それ相応のものを支払ってもらわないと」

「……それ相応のもの? いくら?」

「金はいらないって言っただろ?」


蒼の家で、言われたことを思い出し、顔をしかめてみせると「後払いでもいい」と言い出す。


「それも、椿が俺を好きになってくれれば、チャラにしてやるよ」

「ナギ」


征二さんがナンパ男へ、鋭いまなざしを向ける。
ナンパ男は、反省するどころかにやりと笑って言い逃れを並べた。


「征二さん、いまは勤務時間外。口説いてないし。仕事の話をしてるだけだ」

「仕事を口実に、口説いてるんだろうがっ」

「あれ? バレた?」

「ナギっ!」


ナンパ男は、顔もスタイルもいいし、カクテルを作る姿は、見惚れてしまうくらいカッコイイ。

バーテンダーとして、デザイナーとしても、尊敬できる人だ。
今回作ってくれたCGを見れば、美的感覚も似ているとわかる。

仕事柄、きっとわたしと共通の知人友人がたくさんいるだろうし、同じ匂いのする彼らとの付き合いを面倒に思うこともない。

条件だけ見れば、ナンパ男のほうが蓮よりわたしには合うだろう。


「俺は、恋人にするのに悪くない物件だと思うけど?」


平気でそんなことを言える自信たっぷりなところも、ナンパ男らしい魅力だ。

でも、肩が触れ合うくらい近くにいても、ドキドキすることはないし、自分から触れたいとも思わなかった。

思えば、初めて蓮に会った時から抱いている感情は、蓮以外の男性に対して湧き起こったことがない。

いくら意気投合しても、楽しい時間を過ごしても、キスをしても、「恋」に落ちることはなかった。

わたしの恋愛感情は、蓮に侵されていると言ってもいい。

そのことをくどくどと他人に説明する義務はないけれど、ありきたりな断りの言葉を並べても、ナンパ男は簡単に引き下がらないだろう。

明確な一線を引いておかなくては、余計面倒なことになるのは目に見えている。

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