二度目の結婚は、溺愛から始まる
「あなたは……バーテンダーとして尊敬できるし、デザイナーとしてもすばらしい才能の持ち主だと思う。でも、いくら口説かれても、あなたと『恋愛』をする気はないの」
「いまはその気がなくても、変わるかもしれないだろ? 未来のことは、誰にもわからない」
「未来のことはわからなくても、いまのことはわかる。わたしがいま一緒にいたいのは、蓮なの」
「恋愛感情で? 未練か、もしくは執着だろ」
「自分の気持ちに嘘は吐けないわ」
「いまでも好きだと思い込んでいるだけじゃないのか?」
「思い込みだけで、七年も忘れずにいられるわけがないでしょ」
「七年?」
ナンパ男は、驚きに目を見開く。
「わたしと蓮が離婚したのは、七年前なの。それから、つい先日再会するまで、一度も会わなかった。けれど、わたしは蓮のことがずっと忘れられなかった。試しに他の人と付き合ってみればわかるなんて、言わないで。一度、別の男性と付き合ってみて、わかったの。蓮の代わりになる人なんて、いないって」
「……だから?」
「蓮のことは、『好き』じゃなく……愛してるの」
ナンパ男の顔が歪み、わたしの言葉が彼の何かを傷つけたのだと悟る。
傷つけたいわけではなかったけれど、謝るのはちがう気がして、言うべき言葉を探しているとふわりと背後から抱きしめられた。
「言う相手がちがうだろ」
「れ、蓮っ!? いつ、いつの間に……」
まさか本人に聞かれていたとは知らず、驚きと恥ずかしさで全身が熱くなる。
「帰るぞ。風見さん、失礼します」
蓮は、わたしを椅子から抱き下ろし、手を引いた。
「お疲れさま、椿ちゃん。また明日」
「お疲れさまです……」
気まずいまま帰りたくはなかったが、蓮とナンパ男は犬猿の仲。
長居すればするほど、拗れそうだ。
しかし、そそくさと帰ろうとしたわたしをナンパ男が呼び止めた。
「待てよ、椿!」
振り返ったわたしの目の前には、タブレット。
「肝心なものを忘れてる」
「あ……ありがとう」
受け取ろうと手を伸ばしたが、ナンパ男がタブレットを掴んだ手を離そうとしない。
「ちょっと、どういうつもり……」
「あんたの存在は、椿にとって足枷になるだけだ。椿の将来を思うなら、身を引けよ」
ナンパ男は、タブレットを掴んだまま、固い表情で蓮を威嚇する。
蓮も、冷ややかな表情で言い返した。
「足枷になるとしても、椿を手放すつもりはない。自分を愛してくれる女を遠ざけるなんて、バカな真似はしない。……俺は、おまえとはちがうんだよ」
蓮の放った言葉に、ナンパ男の顔色が変わる。
怒り、憎しみ、悲しみ――苦痛。
見開かれた瞳にいろんな感情が過り、タブレットを掴む手は震えている。
(……どう、したの?)
「ねえ……?」
わたしと目が合った途端、ナンパ男はタブレットから手を離した。
「ナギ、やめろ。すみません、雪柳さん」
征二さんが、ナンパ男の肩を引いて後ろへ押しやり、蓮と彼の間を遮るように立つ。
「以前もお伝えしたとおり、彼が椿を傷つけるようなことがあれば、それ相応の対応をさせてもらいますので」
「はい。十分言い聞かせておきます」
「よろしくお願いします」