二度目の結婚は、溺愛から始まる
「こんにちは……あの、霧島さんと待ち合わせをしているんですが……」
「お名前を伺ってもよろしいですか?」
「雨宮 椿です」
わたしが名乗った途端、彼女は大きく頷き、何を思ったか振り返りざまに叫んだ。
「しゃちょーっ! 彼女さん来ましたよーっ!」
(は? え? 彼女? 社長?)
彼女が振り返った先には、透明な仕切りの向こうで電話するナンパ男がいた。
「しゃちょーって、ほんとに美人さん好きですねぇ……めっちゃスタイルいいですけど、モデルさんですかぁ?」
「ちがいます! モデルではないし、彼女でも……」
大きな誤解を正す間もなく、ナンパ男が手招きしているのを見た彼女が、クイッと親指でそちらを示す。
「呼んでますから、中、入っちゃってください」
フロア中の視線を背中に感じつつ、「社長室」らしき空間へ足を踏み入れる。
聞こえてきたのは、流暢な英語。
ナンパ男は、わたしの腕を掴んで大きなモニターが三つ並ぶデスクの向こう側へ引き入れ、椅子に座らせると電話を切り上げた。
「先に聞いた話のイメージで、とりあえず変更を加えてみた」
前置きも挨拶もなく、いきなり本題へ入る。
モニターに、アプローチの左右にグリーンカーテンが施された庭の様子が映し出された。
「会場への入り口は、ここ。入って右手がガレージになる」
画面上で奥へ進み、薔薇のアーチを潜れば、右手に即席ドリンクバーと即席厨房に変身したガレージがある。
全体的に、庭と調和する緑、茶、そしてウェディングらしい白で色は統一してある。
「ありがとう、イメージどおりだわ」
「追加したいアイテムがあるなら、この場で変更できる」
「そうね……長テーブルに料理を並べて、ターフを張るのがいいんじゃないかと思っていたんだけれど、そうすると庭の景色を遮るでしょ? かといってパラソルを林立させるのもどうかと思うし……」
いまのデザインは、ゲストが料理を取りやすいよう会場の真ん中にテーブルを置く形だが、日差しに長時間料理がさらされるのは衛生上よくないし、ゲストにとってもある程度の日陰は必要だ。
「位置をガレージ近くに変えたらどうだ? 給仕も楽になるし、その場で調理したものを出すこともできるんじゃないか?」
ケータリングを使うとしても、調理ができる場所があれば提供できる料理も変わって来る。
「そうね。動かしてみてもらえる?」
「もちろん」
ほんの数クリックで、風景が一変した。
ガレージ近くに長テーブル。ターフではなく、日よけのスクリーンをガレージの屋根から伸ばすように付けてみる。
庭の奥には、人前式用の祭壇と大小、高低さまざまな立食用の小さなテーブルを置く。
休憩用のベンチやパラソルは、グリーンカーテンの傍に。
アイテムを移動させ、大まかな配置を決めていく。
久しぶりにデザインが形になる楽しさを思い出し、夢中になってしまった。
着々と頭の中にあったものが映像となって出来上がっていく様子に、ワクワクする。