二度目の結婚は、溺愛から始まる
「いいわね! 視界が開けるし、動線もいい。あとは素材を決めて、蒼と紅さんのOKをもらえたら、すぐに準備に取り掛かれるわ」
出来上がったCGは、わたしの頭の中にあるものをそっくり取り出したかのようだ。
「蒼たちに見せるのは貸したタブレットを使えばいい。いま、設定しておいてやるよ」
ナンパ男は、わたしが差し出したタブレットを操作し、ワンクリックで出来上がったCGを呼び出せるようにしてくれた。
「本当にありがとう」
「どういたしまして。で、ご満足いただけたようだから、昼メシにしてもいいか?」
「え? あ! もうこんな時間?」
気づけば、十二時を過ぎていた。
オフィスにも、人の姿はまばらだ。
「ごめんなさい、長々と……わたしはもう帰るから、どうぞランチに行って」
「どうぞじゃねーよ。椿も一緒に行くんだよ」
「は?」
「もう昼メシ食ったのか?」
「まだ、だけど……」
「じゃ、ちょうどいい。付き合え」
ナンパ男は、先ほどわたしを出迎えてくれた彼女にひと言告げてオフィスを出る。
「椿と昼メシ行ってくるから」
彼女は、両手に持ったシュークリームを食べるのを中断し、とんでもない見送りの言葉を投げつけた。
「了解でーす。そのままホテル直行したりしないでくださいね? しゃちょー」
「ほ、ホテル……?」
そんなつもりは微塵もない。
まさか……と疑いの目でナンパ男を見上げたら、舌打ちされた。
「完徹で、んなことしてるヒマも体力もねぇよ」
(完徹……? 征二さんのお店を手伝ったあと、自分の仕事をしていたってこと?)
デザインを完成させるのに夢中で気付かなかったが、エレベーターのボタンを押すナンパ男の横顔は、心なしかやつれているようだ。
「仕事、忙しいなら無理しなくてもよかったのに……」
「仕事を言い訳にするのは、俺の主義じゃない」
到着したエレベーターに乗り込み、地上へ。
なし崩しでナンパ男とランチをすることになったが、行き先も知らないままというのは、落ち着かない。
「ねえ、どこへ行くの?」
「俺の行きつけの店だ」