二度目の結婚は、溺愛から始まる

さぞかし「ナンパ男」らしい、小洒落た店に連れて行かれるのだろうと思っていたら、見事に予想を裏切られた。

ナンパ男がわたしを連れて行ったのは、ふたつ隣のビルに入っているラーメン屋。カウンター席だけのレトロな雰囲気の店を埋めるのは、ビジネスマンばかり。おしゃれな要素はどこにもない。

店は回転が速く、五分と経たずに席が空いた。

A4サイズ一枚で収まるメニュー表にあるのは、ラーメンとライスのみ。
トッピングメニューすらないシンプルさ。
出汁は煮干し。豚骨や鶏ガラと合わせたものもあるようだ。

ナンパ男とのランチを楽しみたいとは思わないが、ラーメンに罪はないし、せっかくなら一番美味しいものを食べたい。


「ねえ、オススメはどれなの?」

「初めてなら、つけ麺か普通の煮干しラーメンの塩だな」

「うーん……じゃあ、普通の煮干しラーメンの塩にする」

「すみません! 煮干しの塩二つ」


ナンパ男の注文に、湯気の立つカウンターの向こうにいたスキンヘッドのお兄さんが目で頷く。

注文した後も、メニュー表の裏に書かれている店の「こだわり」を読んだり、店舗の内装を観察したりと落ち着きのないわたしの様子に、ナンパ男が苦笑する。


「どこへ行っても、そんな風に興味津々なのか?」

「初めてのお店は、そうかも。カフェじゃなくても、何かしら参考になることがあるものだし」


味やサービスが気になるのはもちろんだが、ついつい店舗の内装や外観も気になってしまうのだ。


「バーテンの経験を積みたいってことは、アルコールを出す店をやりたいのか?」

「まだ何も具体的に考えられていないけれど」

「俺を雇えよ? 繁盛するぜ?」


ここは「ありがとう」などと言って、同じように軽い調子で話を合わせるのが大人の対応だとわかっているが、迂闊なことを言ってナンパ男に言質を取られたくない。

CGクリエイターの「霧島 梛」とならいい関係を築けると思うが、バーテンダーのナンパ男とは一緒に働きたくない。


「絶っ対にっ、イ、ヤっ!」

「……おい。そんなにはっきり言うなよ? 傷つくだろ」


眉根を寄せて抗議するナンパ男に、お嬢さまスマイルで応える。


「ごめんなさい? いつも歯に衣着せぬ物言いをされるので、はっきり言われるのが好きなのかと思っていました」

「……おまえ……意外と根に持つやつなんだな」

「ありがとうございます。記憶力はいい方なんです。特に、怒られたこと、注意されたことは、絶対に(・・・)忘れないようにしています」

「………」


ちょうどそこへ、出来上がったラーメンが運ばれて来たため、第一ラウンドは終了。双方コーナーへ引き上げた。

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