二度目の結婚は、溺愛から始まる


「いただきます!」


食べる前から、出汁の香りに頬が緩む。
勢いよく麺を啜り、スープをひと口飲んで目を瞠った。


(美味しいっ!)


煮干し出汁のラーメンは、あっさりしていて身体に優しい味がする。
ストレートで少し太めの麺も食べ応えがあって、いい。

黙々と食べ進めていたら、視線を感じた。
横を見るとナンパ男が笑いを噛み殺している。


「……なによ?」

「美味そうに食うなと思って」

「美味しいんだから、そうなるのは当然でしょう?」

「でも、お嬢さまは豪快に麺を啜ったりしないだろ?」

「ご、豪快って……ラーメンを気取って食べる必要はないじゃない……」


レンゲに麺を載せ、音を立てずに食べるのが正式なマナー。すてきな(・・・・)大人の女性なら、いつでもどこでも、マナーを守るのかもしれない。

でも、ここは高級中華料理店ではなく、「ラーメン屋」だ。
麺がのびたり、スープがぬるくなっては本末転倒。
美味しく食べるのが最重要事項。


「椿のそういう、お嬢さまらしくないところがいいんだよな」

「…………」


お嬢さまらしくないと言われるのは慣れているし、腹が立ったわけでもないが、複雑な気分だ。
とりあえず器を持ち上げてスープを飲むのはやめて、レンゲでちびちびと飲む。

ダラダラのんびりするような店ではないので、十五分ほどで完食。

会計では、奢ると言うナンパ男と押し問答になったが、千円札を無理やりジーンズのポケットにねじ込んでやった。

ラーメン屋を出て、再び「N's Place」へ戻るべく、歩き出す。


「本当に、美味しかったわ! いいお店を教えてくれてありがとう」


ナンパ男は気に入らないが、ラーメン屋は気に入ったので、さっそく地図アプリに登録しておく。


「今度、美味い定食屋に連れて行ってやるよ」

「今度があれば、ね」

「機会なんて、いくらでも作れる」


その気になれば、ナンパ男は何としてでも「機会」を作って望みを実現させようとするだろう。

フリーで仕事をする上で、押しの強さは必須だから、それが悪いことだとは思わない。
ただし、こちらにその気がないことを「はっきり、きっぱり」言っておくに越したことはない。


「わたしは無理に『機会』を作ろうとは思わないし、必要のない付き合いはしないわ」

「必要かどうかは、俺が決める」

「だから……」

「一緒にメシを食うくらい、いいだろ?」

「誘いを待ってるひとが列をなしているんじゃないの?」


ナンパ男は世間一般の基準から言うと「イケメン」で「高収入」「将来有望」。モテ条件をクリアしている。

黙っていても、ハイレベルの女性が寄って来るだろうし、征二さんも「来る者拒まず、去る者追わず」だと言っていた。


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