二度目の結婚は、溺愛から始まる
衝撃のひと言で、さすがにナンパ男も足を止めて振り返る。
こちらを見つめる彼女は、思いつめた表情をしていた。
「ようやく離婚が成立したの。梛の言う通りだった。条件にぴったり当てはまる人となら、上手くやっていけると思ったけれど、ダメだったわ。本当は、もっと早く離婚したかったのだけれど、むこうがなかなか話し合いに応じてくれなくて……」
わたしの腕を掴むナンパ男の手に、力が籠る。
正直痛かったが、いまは余計なことを口にするべきではないと思い、我慢した。
「俺には関係ない」
「関係ないって……そんな、わたしはっ……」
「いまさら何を言われようと、あんたの言葉を二度と信用する気はない」
明確すぎる拒絶の言葉に、大きな瞳が潤む。
「…………彼女……なの?」
「え?」
わなわなと震える彼女の唇から紡がれた問いは予想外すぎて、唖然としている間にナンパ男が肯定してしまう。
「そうだ。だから、あんたが離婚しようが再婚しようが……誰とどうなろうと、どうでもいい。興味はない。お嬢さまのワガママに付き合うほどヒマじゃねぇんだよ。二度と顔を見せるな」
「ちょっとっ! そんな言い方……」
事情はわからないが、あまりにも酷い言い草だ。
「……ごめんなさい、邪魔をして……」
大粒の涙が白い頬を滴り落ち、彼女は逃げるようにして路肩に駐車していた黒塗りの車へ乗り込んだ。
彼女を乗せた車が走り去るのを見つめるナンパ男の横顔に浮かぶのは、「怒り」ではなく、「後悔」のように見えるのは気のせいだろうか。
「腕……痛いんだけど?」
「……悪い」
わたしの腕から手を離し、そのままビルへ入って行こうとする背を呼び止める。
「ねぇ、さっきの……元カノ?」
他人の、しかもナンパ男の恋愛事情になど首を突っ込みたくないが、あんなやり取りを見せられて、何事もなかったかのように振る舞うなんて無理だ。
「彼女、離婚したって言ってたわよね? 既婚者と不倫していたってこと?」
「俺は、人のモノになった女は興味ねぇ」
「それって……」
(もしかして、彼女の結婚が原因で別れた、とか……?)
先ほど話していた「お嬢さま」とは、彼女のことだったのではないか。
そんな気がした。