二度目の結婚は、溺愛から始まる


「俺の昔の女のことなんか、どうでもいいだろ」

「……そうね。余計な詮索して、ごめんなさい」


気にはなるが、深く関わる気がないのなら、聞くべきではない。
そう思ったから、すんなり謝った。

ナンパ男は少し表情を和らげて、気まずい空気を取り繕うように顎でビルの入り口を示す。


「時間、まだあるだろ? コーヒーくらい、飲んで行けよ」

「ううん。予定があるから、今日はこれで失礼するわ。そっちこそ、コーヒーを飲む時間があるなら仮眠したら?」


口から出まかせではなく、涼と愛華に相談したいことがあり、この後『TSUBAKI』に立ち寄るつもりだった。


「俺の身体を心配してくれるのか。優しいなぁ、椿は。添い寝してくれよ?」


にやりと笑うその顔が、わたしの知る「ナンパ男」に戻っていることにホッとした。

ナンパ男のことは好きではないし、彼のことを心配しているわけではないが、らしくない姿を見せられると何だかモヤモヤする。


「お断りよ」

「たまには、ちがう男の味を楽しみたくならないか?」

「ならない」

「知らないだけで、本当はもっと自分に合うものがあるかもしれない。試してみろよ」

「結構よ」

「俺に惹かれたくないと思うから、余計に反発するんだ」

「単純に、ムカツクからよ」

「素直じゃないな」

「本心よっ!」

「ま、そのうちわかるだろ。アイツといるより、俺といる方が自然体でいられるって」

「何を根拠に……」

「俺と椿は、同じものを同じように見ることができる。そうだろ?」


自信たっぷりに言い切ったナンパ男の言葉を否定できなかった。

学生時代、男友だちと共同作業をしたことは何度もあるし、お互いを刺激し合い、力を合わせ、一つのものを創り上げる高揚感に酔う心地よさも知っている。

けれど、「霧島 梛」ほど自分と同じ感覚を共有できる相手はいなかった。

似ているからこそ、わかる。

その目は、わたし自身ですら気づかない、奥底にあるものまで見透かしてしまう。


「罪悪感や挫折感、そんなものを克服するために始めるのは『恋愛』じゃない。ただの罪滅ぼし、お互いに自分自身を許す口実がほしいだけだ」


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