二度目の結婚は、溺愛から始まる
「わかったようなこと、言わないでよっ! 何も知らないくせにっ!」
いまのわたしと蓮は、「純粋な愛情」だけで結ばれているとは言えない。
それでも傍にいたいと思う気持ちに嘘はないし、お互いのためにも一緒にいるべきだと信じたかった。
だから、ほんの少しでも揺らぎたくない。
揺らいでは、いけない。
「何も知らないから、教えてくれよ? 俺は、椿のことをもっと知りたいと思ってる」
「知ってほしいとは、思わないの」
「秘密にされれば、されるほど、知りたくなる。知りたいと思えば思うほど、気になる。気になればなるほど、近づきたくなる」
曖昧な態度を取ったつもりはないのに、頑ななまでに引こうとしないナンパ男に苛立ちが募る。
「どうしてそうわからず屋なのよっ!」
「アイツといても、椿が幸せそうに見えないからだ。笑っていても、どこか翳がある。そんな顔は、椿に似合わない」
「……勝手に決めつけないで」
「傷は、舐め合うだけじゃ癒せない」
一点の曇りもなく幸せ。
七年前の事実がある限り、わたしも蓮も、そんな気持ちには二度となれないだろう。
傍から見れば、歪な関係に見えるかもしれない。
でも、「幸せ」だけではないからこそ、深く繋がっているのだ。
「それでも、わたしは蓮以外の誰かに癒してほしいとは思わない」
「ほかに、幸せになれる道があっても?」
「あったとしても、わたしは蓮と幸せになれる道を選ぶわ」
「……頑固だな」
「ええ、そうよ。わたし、頑固なの」
「気が合うな。俺も頑固なんだ。椿は、アイツとは合わない」
「…………」
(そもそも、耳を傾けたのがまちがいのもと。何を言われても無視よ)
「……帰るわ」
負けたのではなく、戦略的撤退だ。
往来で、真っ昼間からするような話ではない。
そう自分に言い聞かせて背を向けた途端、ナンパ男は恥ずかしげもなく大声で言い放った。
「椿! おまえは、俺のことが好きなんだよ」
たったいま無視すると決めたばかりだが、立ち止まり、振り返って全力で否定する。
「わたしは、あなたみたいなナンパ男、好きじゃないわっ!」
「素直になれよ。俺の名前を呼びたくないのも、気持ちが動くのが怖いからだろ?」
「ちがいます。霧島さん」
「名前で呼べないくらい、意識してくれてるんだな」
「ちがうわよっ!」
「じゃあ、呼べるだろ?」
「呼べるわよ。いくらでもっ! 梛っ!」
売り言葉に買い言葉で思わず叫んでしまってから、ハッとした。
ナンパ男――梛は、満足げに微笑んだ。
(乗せられた……く、悔しい……)
「よくできました。また明日、しごいてやるからな? 覚悟しておけよ、椿」