二度目の結婚は、溺愛から始まる


長居は無用とばかりに、さっさと歩き出した兄の背を慌てて追いかけた。
いろんな疑問が積み重なり、何から確かめるべきか迷ってしまう。

まずは、すぐに回答を得られそうなことから訊ねる。


「ねえ、柾。帰るって、どこへ?」


深い意味もなく、ただ純粋に「場所」を訊ねたつもりだったが、振り返った兄に険しい表情で睨まれた。


「どうしておまえは、いちいち蓮を不安にさせるんだっ! 蓮のところ以外に、帰りたい場所があるのかっ!?」

「そんなわけ……」


わたしの後ろを歩く蓮を振り返れば、目が合うのを避けるように視線を足元へ落とす。

いつだって、最後には相手の気持ちを優先し、強引になりきれない蓮は、すっかり弱気になっていた。


「嘘を吐いて、無理に引き止めていたんだ。椿がそうしたいのなら、柾の部屋へ戻ってもかまわない」

「イヤよっ!」
「お断りだっ!」


柾とわたしは、ほぼ同時に叫んだ。


「返品不可だと言ったはずだぞ? 蓮。いちいち、コイツの言うことを真に受けるな。たいていの場合、考えるより先に口を開いているんだから」

「ちゃんと考えてから話しているわっ! いい加減なこと言わないでよ、柾!」

「考えてから話していても、この有様なら……やっぱりおまえは、バカだな」

「――っ!」


よろめいたフリをして、せせら笑う兄の足を踏んづけてやろうとしたが、近づいたところを捕獲された。


「何するのっ! 柾のバカっ! 離してっ!」


がっちりと腕を掴まれ、抵抗虚しくずるずる引きずられる。


「誰が離すか! おまえと蓮の現状。霧島 梛との関係。この十日ほどの間で、おまえが何をしでかしたのか、蓮のところでじっくり聞かせてもらうぞ」

「……どうして蓮の家なのよ? ここからなら、柾の家の方が近いでしょう?」


いまはまだ、蓮と暮らす空間を誰にも邪魔されたくない。
たとえ兄でも。

しかし、俺様な兄に、即時却下された。


「俺の家はダメだ。つい先日、捨て犬を拾ったからな」

「捨て犬……?」

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