二度目の結婚は、溺愛から始まる


「これまで、いろんな人間にさんざん傷つけられて、辛い思いをしていたせいだろう。警戒心が強いヤツなんだ。もう少し人に慣れるまで、怯えさせたくない」


やや潔癖なところのある兄は、ペット全般があまり好きではなかった。
犬猫鳥はもちろん、昆虫や魚類ですら飼育したことがない。

それなのに、いきなり捨て犬を拾うなんてハードルが高過ぎはしないだろうか。
蓮のように世話好きな性格でもない兄が、犬の面倒をきちんとみられる気がしない。

あらゆる面で心配だ。


「ねえ、ちゃんとお世話できてるの? 散歩とか、グルーミングとか。餌さえ与えれば、放っておいても大丈夫だなんて思ってないわよね?」

「当たり前だ! 俺は、おまえとちがって器用な性質なんだ。犬の一匹や二匹、世話をすることくらい何の問題もない」

「……だといいけど。それで、どんな犬なの? オス? メス? 小さいの? 大きいの?」

「メスで、小さい。気分屋で、偏食ぎみで、ガリガリに痩せてみすぼらしかったが、最近は少しふっくらしてきた。もとは悪くないから、色艶がよくなれば、もうちょっと見られるようになるだろう」


(ふっくら? 普通、そんな言葉犬に使う……?)


多少、その言葉に引っかかるところはあるものの、自慢げに笑う兄は楽しそうだ。

いくら女性との付き合いを重ねても、一向に変わることのなかった強引で横暴、ヒトの話を聞かない性格が、犬との暮らしで治ればいいのだが……。


「ところで……わたしも、柾に訊きたいことがあるわ。彼女――西園寺さんとは、どういう関係なの?」


ロビーを出て、広い駐車場へ向かう兄は肩を竦め、なんでもないことのように重大な事実を口にした。


「大した関係じゃない。昔、見合いをしただけだ」

「ふうん、お見合い……………ええっ!?」

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