二度目の結婚は、溺愛から始まる
意地悪なプロポーズ
わたしの知らないことを教えてくれると言った蓮だったが、晴れて恋人同士となってからも、わたしたちの関係はさほど進展しなかった。
蓮は相変わらず仕事優先。わたしもカフェの開店準備で忙しかった。
わたしが、双子の兄妹である一ノ瀬 涼、愛華と共にカフェを作る計画を立て始めたのは、大学二年生の終わり。
一ノ瀬兄妹とは、大学内外のメンバーで構成されるサークルで知り合った。
サークル名は、「コーヒー愛好会」。
いろんなカフェやコーヒースタンドの味、サービスを比較研究したり、コーヒー豆のフェアトレードをサポートしたり。
コーヒーに関わることなら何でも取り上げるサークルだった。
自分でカフェを開くのが夢だった愛華。
バリスタとして働きたくて、カフェのデザインもしてみたかった、わたし。
トータル的な店舗コーディネートやマネージメントに興味のあった涼。
意気投合したわたしたちは、自分たちの「理想のカフェ」を作ろうと決めた。
フェアトレード製品を扱うことを謳い、クラウドファンディングで資金を集め、足りない分は三人のアルバイト代をつぎ込んだ。
ひそかに進めていた計画の実行をそれぞれの家族に打ち明けたのは、卒業間際の今年初め。
最初はまだ早い、無理だなどと反対されたが、蓮の指導の下に作成した事業計画や収支計画を見せ、とにかく一年様子を見てほしいと頼み込んだ。
上手くいくはずがない、ビジネスを甘くみるな――そんなことを言う人も中にはいた。
けれど、応援してくれる人の言葉にだけ耳を傾けて、わたしたちはもう少しで夢に手が届くところまで、辿り着いた。
貸店舗の契約をしたり、食材などの仕入れ先を検討したり。
少しずつ形になっていく夢にワクワクしながら、走り回る日々を過ごしていた。
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「お邪魔しまーす」
玄関のドアを開けると、しんと静まり返った部屋に出迎えられる。
部屋の主が帰って来た様子はない。
涼たちと今後のスケジュールの打ち合わせに明け暮れた後、ほろ酔い加減で送ったメッセージにも、まだ返信がなかった。
正式に付き合い始めてから、待ち合わせ場所は蓮の自宅。
約束がキャンセルになっても、わたしがどこにいるか心配せずに済むという理由からだ。
蓮からは、約束していなくても自由に出入りしていいと言われているが、一応断りの連絡は入れるようにしていた。
(眠くなる前に帰ってくるといいんだけど……)
ほんの少しでもいいから、蓮の顔を見て、声を聞きたかった。
何もせずに待っていたら寝落ちしそうなので、リビングのローテーブルに契約した貸店舗の図面を広げ、スケッチブックに新たなデザイン案を描き足していく。