二度目の結婚は、溺愛から始まる
中学や高校より小学校の終業時間は早い。
それに合わせて迎えに来るには、早退するしかないだろう。
「三年になって早退することはなくなったが、その代わり、告白してきた相手と手当たり次第に付き合うようになって、ちょっと荒れていた。たぶん、失恋したんだろうな」
「そ、そうなの……」
わたしが寄宿制の中学校へ入学したのは、ちょうどその頃だ。
「どうした? 椿。そんなに、柾の昔の彼女が気になるのか?」
「べ、べつにっ」
「俺には兄妹がいないから、どんな関係が普通なのかはわからないが……柾は椿を溺愛しているからな。『彼女』に嫉妬するのも無理はない」
「え? 嫉妬? そんなものするわけないでしょうっ!? 柾はわたしのことを溺愛なんかしていないわよ」
「一ノ瀬から、椿が救急車に同乗して病院へ向かったと連絡をもらった時、偶然柾が一緒にいたんだ。俺が詳しいことを確かめる前に、青くなって部屋を飛び出して……そんな状態で運転するなと言い聞かせるのに苦労した」
「…………」
「椿と結婚すると報告した時も、さんざん絡まれて、泣かせたらクビにしてやると脅された」
兄が、蓮にそんなことを言ったなんて信じられなかった。
(わたしには、蓮を不幸にするんじゃないって言ったくせに……)
「柾は、愛想がないし、口が悪いから冷たそうに見えるが、情に厚い。家族や友人、人との付き合いを大事にするところは、椿とそっくりだ。だから、『彼女』のことも放っておけないんだろう」
「彼女のこと……梛に、知らせるべきだと思う?」
「それは、彼女の気持ち……考え次第だろう」
「蓮は……知ってるの? 彼女の離婚の理由」
「詳しくは知らないが、相手と何度も話し合ったが上手く行かず、訴訟に踏み切ったと聞いている。彼女の離婚訴訟を担当した弁護士は、俺の知人だ。柾に、友人の手助けをしたいと言われて紹介した。その友人というのが、西園寺家のお嬢さまだったと知ったのは、つい先日だが」
海外の大学を卒業している蓮には、様々な国で様々な職業に就いている友人がいる。
祖父と兄が、蓮を口説き落として引き抜いたのは、彼の持つ人脈が魅力的だったのも理由の一つだ。
「彼女と霧島のことは、事情を知っている柾に任せるべきだ」
「そう、ね」
中途半端に首を突っ込むのは、誰にとっても「いいこと」ではないとわかっている。
でも、明日から再び梛と顔を合わせるのに、何も知らないフリなんてできるだろうか。
気になることがあれば訊かずにはいられないし、何もしないで見守るのも苦手。
隠し事や秘密を抱え込んだまま、これまでと変わらぬ態度で接するなんて、そんな器用な真似が自分にできるとは思えない。
思い悩み、すっきりしない気持ちのまま食事を終え、再び車に乗り込んだところで、蓮がおもむろに口を開いた。