二度目の結婚は、溺愛から始まる
「椿が、霧島や彼女のことを放っておけない気持ちは、理解できる。だが……誰だって、辛い時には安らぎや慰めが欲しくなるものだ。自分のことを理解してくれる存在が、手を伸ばせば届く距離にいるなら、なおさら求めずにはいられない。こちらは単なる親切心でしたことでも、相手の状況によっては、それ以上の意味を持つことだってあり得る」
「つまり……勘違いさせてしまうということ?」
「勘違いさせておきながら最後に手を離すのは、手を差し伸べるより、残酷なやり方だ」
蓮の口調に滲むのは、後悔。
一般論ではなく、彼自身が経験したことを話しているのだと思った。
思い当たるのは、七年前のこと。
「……蓮が橘さんにしたことが、そうだったの?」
「橘のすべてを受け止める気などなかったくせに、中途半端に手を差し伸べて、期待させて……結局、橘も……椿も傷つけた」
蓮が路頭に迷いかけていた彼女を見捨てられるような人だったなら、好きにはならなかったと思うし、そんな蓮の優しさを「中途半端」だと否定するつもりはない。
人として、困っている相手を助けようとするのは自然なことだ。
それが、かつて恋人だった相手――自分のせいで別れてしまった相手なら、余計力になりたいと思うだろう。
「相手の気持ちに応えられないとしても、目の前にいる、倒れそうな人を支えるのがまちがったことだとは思わないわ」
「椿は……心が広いな。俺は、椿が自分以外の男に優しくするのを見たくない」
「わたしが、いつ、霧島 梛に優しくしたのよ?」
「これからするかもしれないだろう?」
「あのね、蓮……」
「ほかの男に優しくするなとは言わない。だが……約束してくれ。何かあったら、一番に俺を頼ると」
月の光とレストランの大きな窓からこぼれる明かりで、暗い車中でも蓮が真剣な表情をしているのが窺えた。
「椿に何かあっても、家族でも、夫婦でもない俺に知らせが来ることはないが、椿自身が知らせることができるなら……柾よりも、誰よりも先に、俺に知らせてくれないか」