二度目の結婚は、溺愛から始まる


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もうすぐ深夜十二時にもなろうかという時刻。

閉店した『CAFE SAGE』のキッチンで、延々とカクテルを作るわたしは、目の前にいる「鬼(梛)」を放っておけないと思った先日の自分を叱り飛ばしたい気分だった。


(こんなヤツのことを少しでも心配したわたしが、バカだったわ……)


カクテルを作る上で必須のビルド・ステア・シェイク・ブレンドの基本を教わっているが、あまりにも「ダメ」を連発され、自分が世界一の不器用者になったような気がしてくる。


「なんか文句でもあるのか? 椿」

「……ない」

「だったら、もっとスナップ効かせろ! 手首が固いっ! シェイクしたせいで、マズくなるってどういうことなんだよっ!?」

「――っ!」

「おい、ステアの意味を理解してるか? バースプーンを突っ込むんじゃない、混・ぜ・る・ん・だっ!」

「――っっ!」

「ビルドで作って炭酸抜けちゃ、意味ねぇだろうがっ! モタモタすんな」

「――っっっ!」


容赦ない梛のダメ出しに歯を食いしばり、バースプーンでかき回し、リキュールを注ぎ、シェーカーを振り回してみるが、「なんだ、そのふざけた踊りは?」とさらにダメ出しされ、叫び出しそうになった。


(わたしはMじゃないのよっ! 褒められて伸びる子なのよっ!)


もはや、何十回目かわからないシェイクに、上腕二頭筋と手首が悲鳴を上げている。

効率のいい動きを会得できていないから、なおさら疲れるのだとわかっていても、一朝一夕でつかめるコツではない。

店の掃除を終え、売り上げの計算をしながらわたしたちの様子を窺っている征二さんは、止めもしなければ、助けてもくれない。


「そんなんで、本当に征二さんの代理が務まるとでも思ってんのか?」

「……思ってないわよ」

「だったら、もっと真面目にやれっ!」

「やってるわよっ! 上達しないのは、教え方が悪いせいじゃないのっ!?」


ついに我慢の限界を迎えて言い返すと、チンピラよろしく凄まれる。


「あぁんっ!? なんだとゴラぁ!」



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