二度目の結婚は、溺愛から始まる
ここでようやく征二さんが止めに入った。
「梛。効率のいいシェイクの動きを身体で憶えるには、時間がかかるってわかってるだろう?」
「そんな甘いこと言ってたら、いつまで経っても一人前になれないでしょう? 征二さん」
「いいんだよ、まだ半人前で。そのために、おまえを呼んだんだから」
「ずっとヘルプに入るのは、無理ですよ?」
「ああ。月木だけでいい。それ以外は、俺がいるから」
「だけでいいって……とりあえず基本さえ教えてくれればいいって言っておきながら、俺のことアテにしてるんじゃないですか」
「自分から手伝わせてくれと言ったんだろうが」
「そうですけどね! まさかこんなに不器用なヤツだとは……。俺が椿なら、さっさと諦めてるレベル」
バカにした表情で見下ろされ、思わず手にしていたシェーカーをその額に投げつけたくなった。
「まあ、確かに……予想以上に不器用で驚いたけど。椿ちゃんは努力家だからね。コツさえ掴めれば、上達するよ」
征二さんにまで不器用だと思われていたことはショックだったが、諦めるつもりは毛頭ない。
ぐっと唇を引き結び、偉そうな指導係を睨み返す。
(負けない……絶対に、ナンパ男なんかに負けないんだからっ!)
「なんだ、その反抗的な面は? 服従させられたいのか?」
ぐいっと顎を掴まれ、間近に覗き込まれる。
「は、離してっ!」
「梛。手を出すな」
一段声を低くした征二さんに警告されると、梛はあっさり手を離したものの、不敵な笑みを浮かべる。
「出してませんよ。……まだ」
「梛!」
「征二さんをいつまで付き合わせる気だ? さっさと片づけろ、椿」
「…………」
いちいち命令されると腹が立つが、いろいろと大変な状況にある征二さんをこんなに遅くまで練習に付き合わせてしまったのは、不器用なわたしのせいだ。
手早くグラスや道具を洗い上げ、キッチンをきれいに片づけて、三人揃って店を出る。
「おつかれさまでした」
「おつかれさま。椿ちゃん、お迎えは?」
「今日はタクシーで帰ります」
「えっ! じゃあ、電話して……」
「駅前まで行けば簡単に捕まえられますよ」
今日は接待が入っているから迎えに行けないと予め蓮に言われていたのに、帰りのタクシーを予約するのをすっかり忘れていた。
「じゃあ、俺が駅まで一緒に行くよ」
「そんなっ! 大丈夫ですから、征二さんはまっすぐ帰ってください」
明日の土曜日、午前中だけ店を閉め、朝のうちに奥さんを見舞うという征二さんには、早く家に帰って休んでほしかった。
「雪柳さんから預かっているのに、そんなわけにはいかない」
「や、でも……」
「俺もタクシーで帰るつもりだったんで、ついでに送りますよ。征二さん」
「え」