二度目の結婚は、溺愛から始まる
梛の申し出に、征二さんは顔をしかめた。
「おまえと一緒に帰すほうが、より危険が増す」
「デキの悪い椿にさんざん付き合わされて、クタクタなんです。その気になんかなれません」
深々と溜息を吐いてそんなことを言う梛に、征二さんのしかめ面が緩む。
「……信用していいんだな?」
「疲れているときは、キャンキャンうるさい犬じゃなく、大人しく擦り寄って来る猫がほしい気分になるでしょう?」
(はぁっ!? なんですって……)
聞き捨てならない台詞に、溜まりに溜まっていた怒りが爆発した。
「それはこっちの台詞よっ! 征二さん、わたしひとりで帰れますからっ!」
「おまえが駄々をこねれば、それだけ征二さんが迷惑するだろ」
「…………」
梛の言うように、わたしが嫌がれば、征二さんは自分で送ろうとするだろう。
しかし、征二さんにこれ以上迷惑をかけたくない。
とりあえず、征二さんが見ている間だけ、梛と一緒に帰るフリをすればいいのだと思いついた。
「椿ちゃん、やっぱり俺が……」
「あの、大丈夫ですからっ! 今夜だけ、送ってもらいます」
「本当にいいの?」
「はい」
「行くぞ、椿」
「気をつけてね、椿ちゃん」
「おつかれさまです! また明日よろしくお願いします」
申し訳なさそうな顏の征二さんに見送られ、梛に腕を掴まれて歩き出す。
「……ちょっとっ! 歩きづらいんだけどっ」
「俺もだ。こうすれば、歩き難くないんじゃないか?」
腕から離れた手が、わたしの手を包み込んだ。
大きくて骨ばった手は、男性のものだけれど蓮とはちがう。
具体的にはどこがちがうのかは言えないけれど、しっくりこない。
「は、放してっ!」
「放したら、逃げるだろ」
「当たり前じゃないっ」
「アイツは、ほかの男と手を繋いだくらいで嫉妬するのか? 心の狭いヤツだな。そもそも、おまえに束縛の強い男は合わない。お堅い男もだ」
梛は、蓮とわたしがいかに合わないか、その理由を並べ立てた。
「たった数日やってみただけでも、わかっただろ? 飲食とサラリーマンじゃ、生活リズムが合わないんだよ。本気でバーテンダーの仕事を憶えたいなら、本格的なバーで働くべきだし、そうなれば昼夜逆転の生活を送ることになる。休みだって、不規則だ。俺もそうだったが、たいていは店を閉めてから練習やオリジナルの考案に時間を割き、家に帰るのはどんなに早くても日付が変わってからになる。ただでさえ体力的にキツイのに、家事なんかできやしない」