二度目の結婚は、溺愛から始まる
緑あふれる空間。
機能的でシンプルな空間。
ユニークなインテリアに囲まれた空間。
さまざまなパターンを思いつくだけ吐き出し、夢中になって描いていると玄関のドアが開く音がした。
「……椿?」
リビングに現れた蓮は、なぜか驚き顔だ。
「おかえりなさい。連絡したんだけど……?」
脱いだジャケットからスマホを取り出した蓮は、舌打ちした。
「悪い……飲んでて、まったく気づかなかった」
ネクタイを緩めながら、わたしの肩越しにデザイン画を覗き込む。
「店舗のデザインか?」
「そうよ。店舗デザインはわたしの担当だけど、三人の意見を取り入れて決めたいから、いくつか案を出そうと思って。蓮は、どれが好き?」
「椿がデザインしたものなら、どれも好きだ」
くしゃりとわたしの髮をかき回し、優しく笑う。
「それじゃあ、参考にならないじゃないの」
「本当のことなんだから、しかたないだろ」
ソファーに身を投げ出すようにして腰を下ろした蓮からは、ほんのりお酒とタバコの匂いがした。
「接待だったの?」
「いや。ひとりで飲んでた」
「ひとりで?」
「ああ。家だと潰れるまで飲みたくなるから、外で飲んでいた」
深々と溜息を吐いて俯く蓮は、珍しく落ち込んでいるように見えた。
「……何かあったの? 仕事のこと? それとも……」
何でもないと言われるかと思ったが、小さく息を吐き、沈んだ声で話し出す。
「今日、出先で元同期とバッタリ会ったんだ。事情があって、去年『KOKONOE』を辞めたヤツで……なかなか次の職が見つからずに困っていたらしい」
「……そう。その人とは、仲が良かったの?」
「ああ。同期だし、特別な存在だった。それなのに……いままで何も知らずにいた自分が情けなくて……。もっと、何かしてやれることがあったんじゃないかと思わずには、いられない」
後悔の滲む声で呟いた蓮は、膝に肘を着いて大きな手で顔を覆った。
涙は見せない。
でも、きっと泣きたいのだろうと思った。
「蓮」
呼びかけ、俯いていた顔を上げた蓮の唇に、自分の唇を重ねる。
いつも蓮がわたしにしてくれるようなキスには程遠い。
けれど、冷たい唇を温めるように何度も押し当てた。
しばらくは、されるがままにキスを受け止めていた蓮だったが、腕を伸ばしてわたしを抱き寄せる。
「んっ」
唇を押し開かれて、子どもだましのようなキスは、深く激しいものへと変わった。