二度目の結婚は、溺愛から始まる


予想に反し、明るいのは玄関だけ。蓮の靴もなかった。

何かあったのかもしれないと不安になり、鞄から取り出したスマホが震える。

架けて来たのは予想外の相手。
兄の柾だ。


「……もしもし? 柾?」

『椿、いまどこにいる?』

「え? 蓮の家よ。いま着いたところ」

『ひとりか?』

「そうだけど……?」

『いつもこんなに遅くまで働いているのか?』

「ううん。今夜は、ちょっとお店で特訓を受けていたの」

『特訓? 霧島と二人きりでか?』

「征二さんもいたわよ。ねえ、柾。何なの? 尋問?」


いちいち事細かに訊ねる兄の思惑がわからず、問い質す。


『椿……おまえ、蓮を心配させるようなことは、していないだろうな?』


一瞬、ギクリとしてしまったが、「何か」あったわけではない。


「あ、当たり前じゃないのっ!」

『だったら、そのまま待て。何もするんじゃない。シャワーを浴びたり、化粧を落としたりするな』

「はい? 意味がわからないんだけど……」


キッチンに立てば、食べ物の匂いが自然と身体に染み付く。
シャワーを浴びて、ようやく仕事が終わった感じがするのに、このまま待てだなんて横暴すぎる。


『もうすぐ蓮が帰る』

「え? 柾、蓮と一緒なの?」

『とにかく、じっとしてろ。いいなっ!』


兄の不可解な言動の理由を聞き出せないまま、一方的に電話は切れた。


「いったい、何なのよ……」


溜息を吐いて靴を脱ごうとしたその時、背後で玄関のドアが開いた。


「……蓮?」


振り返れば、たったいま話題にしていた人がそこにいた。

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