二度目の結婚は、溺愛から始まる
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思い切り寝坊したわたしが『CAFE SAGE』に出勤したのは、午後二時。
土曜日の激混みランチタイムも終わろうかという頃だった。
「すみませんでした、風見さん」
「いえ。疲れていたんでしょう。昨夜は遅くまで練習していたし。もともと椿ちゃんには遅番をカバーしてもらうつもりなので、気にしないでください」
「しかし、声も出ない状態ですし……」
「接客するわけじゃないので、大丈夫ですよ」
恐縮し、わたしの代わりに平謝りに謝る蓮に対し、征二さんは苦笑いした。
風邪でもないのに声をからすなんてどうしたのか、疑問に思うのが普通だろうに、何も訊かないのはその原因に見当がついているから。
海音さんも、含み笑いをしながらこちらを見ている。
わたしの代わりに謝る蓮は、自分がその原因だと暴露しているようなものだ。
(恥ずかしすぎる……だから、一緒に来なくていいと言ったのにっ! 蓮のバカ!)
しかし、そんな怒りも、凛々しい眉をぎゅっと寄せ、沈痛な面持ちでもう何回目かわからない、反省の言葉を述べる蓮を前にすると維持できない。
「椿……すまなかった。仕事の邪魔をするなんて、最低だ。反省してる」
わたしと一緒に寝過ごした蓮は、見ているこちらが気の毒になるくらい、うろたえた。
起きた時間が時間だっただけでなく、わたしがすぐにはベッドから起き上がれなかったからだ。
救急車を呼ぼうとするのを止めれば、柾に電話しようとし。シャワーを浴びたいと言えば、自分が洗うと言い。わたしに服を着せるのも、髪を乾かすのも、全部自分がやると言って譲らなかった。
しまいには、タクシーで行くと言っているのに、蓮の車に積み込まれ……こうして送り届けられた。
「……まだ、怒っているのか……?」
(……怒ってないわよ)
自信たっぷり、強気でわたしを翻弄する蓮には、いつだってドキドキさせられる。
でも、こうしてちょっと気弱になっている蓮を見ると、胸がきゅっとなって、ぎゅっと抱きしめてあげたくなる。
ついでにキスもしたくなる。
(反則よ! 仕事を放り出して、休みたくなるじゃないのっ!)
蓮はそんなわたしの気持ちに気づいていないのか、真面目な顔で、今回の失敗を踏まえた具体的な解決策を述べた。
「今度からは、休みの日の昼間に抱くようにする。そうすれば、疲れで寝落ちすることはないし、翌日の仕事にも響かないだろう?」
「――っっっ!」
(こんなところで、なんてこと言うのよっ!)
「今夜は迎えに来るから、終わったら連絡してくれ。遅くなってもいいから……」
(わかったから、早く帰ってー!)
「椿?」
ぐいぐいと蓮を店の外へ押し出し、平常心を取り戻すべく深呼吸する。
いざ仕事モードに気持ちを切り替えようと気合を入れて振り返ったら、にやにや笑う征二さんと海音さんに見つめられていた。