二度目の結婚は、溺愛から始まる
「雪柳さん、すっかり椿ちゃんに翻弄されてるねぇ」
「なんだか……大型犬と小型犬がじゃれているみたいで、かわいい」
(海音さんまでっ!)
「それにしても……大人の雪柳さんが理性を失うような何をしたの? 椿ちゃん」
(な、何も……)
「まさか……梛と何かあったわけじゃないよね?」
(ナイナイ! キスには至ってないんだから、あれは「ノーカウント」よっ!)
目を眇め、探るような視線を寄越す征二さんに、首を振る。
「うーん……理性を忘れるなんて、嫉妬以外思いつかないんだけどなぁ」
(……嫉妬? まさか……見られていた?)
昨夜、梛にキスされそうになったところを蓮に見られていたとしたら……と考えて、血の気が引いた。
兄からの不可解な電話。
わたしが帰宅して間もなく、蓮も帰宅したこと。
偶然のひと言で片付けるには、タイミングが良すぎる。
「まさか」という気持ちと「もしかしたら」という気持ちが交互に襲ってきて、一気に不安が募る。
(蓮が訊ねる前に、こちらから言うのはヤブヘビになりそうだし、かといって黙っているのもマズイ気がするし……)
押し寄せる不安を振り払うように、頭を振るわたしの様子に、征二さんは神妙な面持ちで忠告した。
「もし、梛に何かされたら、遠慮なく言ってね? 椿ちゃん。アイツは俺の弟分のようなものだけれど、椿ちゃんに何かあってからじゃ、遅い。ようやく雪柳さんと上手くいきかけているのに、こじれたりしてほしくないんだ」
大変な思いをしている征二さんに、余計な心配はかけたくなかった。
梛とは、ちゃんと距離を保って、二度とあんなことにならないようにしようと心に固く誓う。
「……は、ひょ……ふ……」
「あー、無理してしゃべらなくていいよ。ツボに入るから」
征二さんは、くすくす笑いながら手を振る。
それからは、優しい征二さんに感謝の気持ちを示すため、遅刻してしまった分を取り戻すため、いつも以上に気合を入れて働いた。