二度目の結婚は、溺愛から始まる

週末は、ビジネスマンやOLのお客さまは少ないけれど、ゆっくりゆったりコーヒーやアルコールを楽しみたいとやって来るお客さまが多い。

ランチタイムを過ぎてもお店が空になることはなく、オーダーもさまざま。
ある意味、平日よりもキッチンはバタバタする。

その合間に、常連さんに海音さんが提案したテイクアウトメニューの試食を頼んだり、昼飲みのお客さまに征二さんがカクテルを作る様子を観察したり。

気づけばもう夕方で、そろそろ、表に出している立て看板をディナーメニューに変えようかと思い始めた頃、エアポケットのようにお客さまがひとりもいなくなった。


「夜シフトのアルバイトも、もうすぐ出勤して来るし、ちょうどキリがいいから、海音ちゃん上がって?」


征二さんの言葉に、海音さんも笑顔になる。
今日は、旦那さんのご両親と一緒に『SAKURA』で食事をする約束があるため、早めに帰って支度を整えたかったようだ。


「じゃ、遠慮なくそうさせてもらいます。テイクアウトメニューは、今日いただいた感想を踏まえて、来週の月曜から試験的に始めるってことで……」


エプロンを外しながら、海音さんが来週からの予定を確かめると、征二さんが「あっ!」と声を上げた。


「そうだった! ごめん、海音ちゃん。椿ちゃん。バタバタしてて、すっかり言うのを忘れてた……。急で申し訳ないんだけれど、来週の月曜日と火曜日は臨時休業にしようと思う」

「臨時休業?」

「京子の手術日、来週の月曜日になったんだ」

「随分……急ですね」


急がなくてはいけないほど、病状が悪化しているのでは、と心配する海音さんに、征二さんは「ちがう、ちがう」と首を振って微笑んだ。


「予定していた手術がキャンセルになったらしくて、担当の先生が順番を繰り上げてくれたんだよ。それで、店で何かあっても、俺に連絡がつかないかもしれないから、月曜日と火曜日はお店を閉めようと思って」

「わかりました。あの……その日、わたしも病院に行ってもいいですか? 征二さん」

「ありがとう。海音ちゃんが来てくれたら、京子も心強いと思う」


実のお母さんを早くに亡くした海音さんにとって、征二さんの奥さんは母親代わりのような存在だと聞いている。心配するのも当然だ。

わたしも、こんなにお世話になっている征二さんの奥さんを元気づけたいけれど、会ったこともない人間が突然見舞いに行っても、かえって気を遣わせてしまう。

まずは、手術が無事終わることを祈り、精いっぱいお店を手伝うことで、征二さんたちの力になりたい。

< 246 / 334 >

この作品をシェア

pagetop