二度目の結婚は、溺愛から始まる
「お先に失礼しまーす」
「おはようございまーす」
海音さんが帰るのと入れ違いで、夜シフトのアルバイトがやって来た。
大学四年生の男の子。
物静かで真面目。メガネが似合う知的な雰囲気のイケメンだ。
実家の稼業を継ぐことが決まっているため、就職活動はしていないらしく、週五日でシフトに入れる貴重な人材。
さりげなく気の利いた接客ができると征二さんもお気に入りで、「彼が抜けたら困るなぁ」とぼやいていた。
「……は、よ」
「椿さん、その声……どうしたんです? 風邪ですか?」
「喉、痛めたみたいなんだよ」
話せないわたしの代わりに、征二さんが説明してくれる。
「……大変ですね。無理しないで、俺にできることなら、何でも言ってくださいね?」
「あり、が、と……」
「椿ちゃん、ちょうどヒマだし、休憩に入って。ホットレモネード作ってあげるよ」
征二さんが作ってくれるドリンクなら、どんなものでも美味しいとわかっているけれど、わざわざ手間を取らせるのも申し訳ない。
「あ、の……もう、だ……じょぶ……」
まだ、カスカスの声だが、起きた当初よりはだいぶマシになっている。
「そのままだと、梛に何か言われるよ?」
(それは……まちがいない)
「遠慮しないで。賄いは、リゾットでもいいかな?」
(リゾット! 食べたい!)
「二人が新メニューを考えるのを見ていたら、俺も新しいメニューを考えてたくなってね。試作品だけど、味見お願いしてもいい?」
(ぜひぜひ!)
新メニューにするなら、調理方法も覚えておかなくてはいけない。
味付けなどを観察しようと思っていたら、新たなお客さまがやって来た。
「いらっしゃいませ」
出迎える征二さんの声が、どこか遠く聞こえた。
入口で立ち止まり、こちらを見つめているのは、タイ付きのブラウスにタイトスカート、靴はもちろんハイヒール。女性らしい装いが似合う美女――西園寺 花梨。
そして、彼女の傍らにいるのは、ジーンズにカットソー、ジャケットを羽織っただけの休日モードの兄、柾だった。