二度目の結婚は、溺愛から始まる
『で、デートっ!? そんなこと無理っ……』
「蓮には、俺からも話す」
「お願いします」
昨夜、蓮の様子がおかしかった原因もわかっていないのに、さらに事態をややこしくするような真似はしたくなかった。
第一、男性をデートに誘うなんて、蓮以外にしたことがない。
きっとぎこちなくて、怪しまれることまちがいなしだ。
それでも、兄と二人がかりで頼み込まれてしまうと、断りづらい。
梛と彼女のことを放っておけないと思う気持ちは、ある。
あるけれど……。
『考えさせてほしい……』
苦肉の策として、返事の先延ばしを要求してみたが、あっさり却下された。
「ダメだ。時間がない」
『時間がない……?』
「できれば、すぐにでも梛と結婚したいんです」
『結婚』
彼女が梛と「恋人同士」としてヨリを戻すだけでなく、それ以上の関係を求めていることに驚いた。
「紙の上だけの夫婦でもかまわない。梛には、わたしの配偶者になってほしいんです」
「配偶者」という響きは、「夫」や「旦那」と比べると堅苦しく、よそよそしくさえ聞こえた。
彼女も梛も現在独身なら、結婚はできる。
でも、なぜそんなに急ぐのか。
どうして「結婚」しなくてはならないのか。
梛の心までは求めない。
それでも「結婚」したいという彼女の考えがわからなかった。
浅くはない付き合いだった彼女なら、負けず嫌いで頑固な梛は、強引な真似をすればするほど、反発し、頑なになるとわかっているだろうに。
梛が、素直に自分の気持ちと向き合えるようになるまで、待つことはできないのだろうか。
『あの、どういうことなのか、ちゃんと説明してほしいんだけれど』
何も考えず、言われるままに協力すればいいのかもしれないが、その結果、誰かが傷つき、苦しむのは見たくない。
自分が何をしようとしているのか理解しないまま、動きたくなかった。
困惑するわたしに、柾が彼女の言葉を補足した。
「花梨は、霧島に配偶者としての権利を与えたいんだ。他人では、少々面倒なことになるから」
『配偶者としての権利って?』
蓮と結婚していたわたしだけれど、結婚生活が本格的に始まる前に終わってしまったようなものだったから、あまりピンと来なかった。
柾は、苦い表情でひと言。
「遺産だ」
『遺、産……?』
「配偶者なら、必ず相続人になれる。遺言で別途指定することも可能だが、遺産の額が大きく、血縁者が多ければ多いほど揉めるケースが多い」
正真正銘のお嬢さまである彼女なら、生まれた時から自分名義になっている資産があるのかもしれないが、それにしたって遺産相続のためだけに、結婚したいなんてしっくりこない。
そもそも、そんな話をするには、彼女も梛もまだ若すぎる。
「すみません……突然、こんな話をして。わけがわからないですよね」
わたしが納得していないのを感じ取ったのか、花梨は小さな吐息を漏らし、改まった表情でこんなにも急ぐ理由を告げた。
「わたしが結婚を急いでいるのは……早ければ一年、どんなに長くても三年は生きられないからです」