二度目の結婚は、溺愛から始まる
大きな手が背中を辿り、うなじに触れると同時に、はだけたシャツが肩から滑り落ちる。
わたしの呼吸が速くなったのを感じ取ったのか、蓮は唇を離し、首筋に噛みつくようなキスを落とす。
大きな身体も、その奥にある心も、全部温めてあげたい――。
そんな気持ちに駆られて抱きしめようとしたら、肩を掴まれ、押しやられた。
「……離れろ、椿。俺は……酔ってる」
至近距離で見る潤んだ黒い瞳には、これまで感じたことのない「熱」がある。
「わたしも酔ってるから、ちょうどいいと思うけど?」
付き合い始めてから三か月。
蓮は、キス以上のことをしようとしなかった。
部屋へ自由に出入りすることを許され、寝落ちして泊まったこともあるけれど、何もなかった。
大事にされていると思う。
でも、いつまでも子ども扱いされているようで悔しくもあった。
(弱っているところに付け込むような真似はしたくない。でも……)
いまの蓮はぬくもりを欲しているのだと感じる。
緊張のあまり震える手でYシャツのボタンをどうにか外す。
蓮の裸を見るのは初めてだ。
広い胸に触れ、きれいに割れた腹筋を辿り、ベルトに到達したところで手首を掴まれた。
「やめろ」
「どうして?」
「いまの俺は、自制できる状態じゃないんだ」
「自制してほしいなんて、言ってないわ」
「椿!」
蓮に険しい表情で睨まれても、怖くはなかった。
むしろ、子どもではなく、恋人として――ちゃんと大人の女性として認識されていると知って、嬉しかった。
「したくないの?」
「おまえには……時々、どうしようもなくイラつくんだよ」
「わたしも、時々、どうしようもなく蓮にムカツクわ」
「いつもしゃべりすぎだと言ってるだろうが」
「お望みなら、お嬢さまらしく黙って微笑んでいることもできるわ。口にするのは『はい』『ええ』『いいえ』だけ」
「ぞっとするから、やめてくれ」
「しゃべりすぎだって言ったじゃないの」
「おまえは、本当に…………」
蓮は盛大に溜息を吐き、泣きそうな顔で笑った。
「どうしようもないな」
わたしが思い描く「理想の初体験」は、どこかの素敵なホテルでディナーをして、夜景を見下ろしながらイチャイチャして、愛の言葉を囁かれながら、スプリングの効いた広いベッドで抱かれる、というものだった。
でも、理想とはかけ離れていても、相手が蓮ならどんな初体験でもかまわなかった。
いつ、どこで抱かれようと、かまわなかった。
蓮がわたしを必要としてくれるなら。
「途中でイヤだと言っても、やめてやれない。それでもいいのか?」
「中途半端に処女を失うなんて、イヤ。やるなら、最後までして」
強気で言ってみたものの、緊張と期待で心臓がいまにも破裂しそうだ。
「どうしてそう煽らずにはいられないんだよ? おまえは」
「煽ってなんか……」
「だから……黙れって言ってるだろ」
まつげが触れそうな距離で見つめ合い、蓮はキスでわたしを黙らせた。