二度目の結婚は、溺愛から始まる
結婚する理由
二十二時まであと二十分。
お客さまは、男性の常連二人のみ。
ラストオーダーは「X.Y.Z」と「ホワイト・レディ」。
すぐ横で、リズミカルにシェーカーを振る梛を盗み見ながら、唇を噛む。
(認めるのは悔しいけれど……カッコイイ)
その言動に問題大アリの梛だが、バーテンダーとしては、征二さんの次の次の次の…………次くらいに「すごい」と思う。
梛が手伝い始めてから一週間も経っていないのに、あきらかに彼目当てと思われる客がすでにちらほら見受けられる。
純粋に彼の作る「カクテル」が目的かもしれないが、イケメンの相乗効果でお酒がいっそう美味しく感じられることは否定できない。
(これで、売れっ子CGクリエイターという肩書まで知れたら、もっと通うお客さまが増えそうね……)
彼のほうが、確実にわたしよりも売上に貢献できるのだと思うと、悔しさは増す一方だ。
ライバル、と言えるほどのレベルに達していないのは十分自覚している。
けれど、どうしても素直に教わろうという気になれない。
(梛がどう思っているかは、わからないけれど……恋人と一緒。師匠と弟子にも、相性というものがあるのよ!)
波長が合うのは、似たもの同士とは限らない。
似たもの同士だからこそ、イラつき、反発することだってあると思う。
純粋に師匠と呼べる相手ではないのも、一因だ。
今夜の梛の態度は、昨夜の一件を記憶から抹消したのか、ごく普通。
声が出ないことを含めて、ダメ出しをするだけで、変化はない。
それこそ、わたしへの恋心なんて欠片ほどもないと物語っている。
そんな相手に誘いをかけるなんて、蓮に猛攻を仕掛けた時よりも勇気を要した。
蓮のときは、相手の気持ちがまったくわからなかったから、突っ走ることができたのだ。
(お互いにその気がないとわかっていて、デートに誘うなんて、何か企んでいることがバレバレだと思うんだけど……)
化かし合いのようなことをするのは、気が進まない。
「おい、椿。ボケッとしてんな!」
梛に小突かれてハッとする。
最後の二人連れが会計を終え、ちょうど店を出て行くところだった。
「あ、ありはと……」
ありがとうございますと言っているつもりが、そうは聞こえなかったらしく、梛が噴き出すのを堪えて咳込んだ。
「俺を笑い死にさせる気か? 無理してしゃべんな。さっさと片付けろ」
何気なく口にされた「死」という言葉に、心臓がドクンと大きく波打ち、西園寺 花梨から聞かされた話が脳裏によみがえった。