二度目の結婚は、溺愛から始まる
柾と一緒にわたしを訪ねて来た西園寺 花梨は、どうしてそんなに急いで梛と「結婚」したいのかという問いに、自分の余命を告白した。
『一年ほど前から続けていた治療の効果が上がらず、手術することになったのですが……その結果、余命宣告されたんです。早くて一年、治療で緩和できたとしても……長くて三年と言われました』
もちろん、余命宣告は絶対的な命の期限ではない。
あくまでも、データだ。絶望的な状況でも、治療が功を奏して奇跡的に回復する人だっている。
五年後、十年後、二十年後に生存している確率はゼロではない。
ただ、彼女の場合は、今後治療を継続しても完治する可能性は限りなく低いということだった。
現在、彼女が保有している個人の資産は大まかに分類すると、株式、国内外の不動産と死亡保険金。遺言で相続人に梛を指定することもできるが、西園寺家側が横槍を入れてくる可能性が高い。
そのため、誰にも文句を言われることなく、遺産を受け取れる立場に梛を置きたいというのが、「結婚」にこだわる理由だった。
『わたしが梛のためにしてあげられることは、もうそれくらいしか残っていないんです』
梛のためにできることは他にもあるだろう。
しかし、それを探して検討し、実行するだけの時間が、彼女には残されていなかった。
花梨は、梛に自分の事情を話さずに結婚までこぎつけたいと考えているようだが、どんな手を使うつもりなのかまでは教えてもらえずじまい。
柾は、彼女の考えを全面的に支持しているわけではないが、その望みを叶えるために助力は惜しまないつもりのようだ。
(梛に、金銭面だけでも償いたいという彼女の気持ちは、わかる。でも、梛は本当にそれを望んでいる……?)
バーテンダーとCGクリエイター、梛が二足の草鞋を履いていた年月は短くはないだろうし、そんな境遇に陥ったのは彼女のせいだと恨んだかもしれない。
でも、梛が彼女に対して抱くのは、「恨み」や「憎しみ」だけではないと思う。
だからこそ、きちんと彼女と向き合ってほしかった。
「いつか」を待てないなら、いま向き合わなければ後悔する。