二度目の結婚は、溺愛から始まる


「デートしてくれるなら、椿にはきっぱりフラれたから、これ以上付きまとわないとアイツに言ってやってもいい」

(信用ならない……)

「俺は、有言実行の男だぜ? 約束は守る」


梛は、胸に手を当て「神に誓って」などと言うが、絶対に嘘だと思う。

デートなんて「お断り」と一刀両断にしたい。
したい、が……これは願ってもいないチャンスだ。

自分から誘いをかけることなく約束を取り付けられる。
騙す心苦しさは、多少なりとも減る。

梛も、自分から誘っておいて「やっぱりやめた」と言い出したりはしないだろうし、疑われて勘づかれ、逃げられる可能性も低い。

やるなら、確実に梛を捕獲したかった。
梛に会いたいと、切に願う彼女をぬか喜びさせたくない。

(蓮が、もし昨夜の梛とわたしの「キス未遂」を目撃していたら、梛とデートするなんて余計に誤解を招きそうだけれど……それはそれ、これはこれ。ちゃんと説明すれば、きっとわかってくれるはず……)


「ひ……はよ」

「は?」

「…………」


わざとらしく耳に手を当てて顔を寄せて来る梛に、高速で文字を打ち込んだスマホを突き付ける。


『いいわよって言ったの!』


大げさに仰け反って驚いて見せた梛は、わたしの額に触れようと手を伸ばしてくる。


「……熱でもあるのか?」


バシッとその手を叩き落とし、『明日なら、空いている。待ち合わせ場所は、あとで連絡する』と打つ。


「俺も、明日は予定がないから大丈夫だ。行先は、椿が決めてくれるのか?」

『そうよ』


思惑どおりに事を運ぶには、事前の打ち合わせが必須だ。
場所も時間も、こちらで決めておかなくてはならない。


「楽しみだな。いちいち、筆談すんのはめんどくせーから、明日までにはその声治せよ?」

『言われなくても治すわよっ!』


ふっと身を屈めた梛が耳元で囁いた。


「ま……せっかく治しても、明日俺が同じ目に遭わせるけどな」

(な、な、何ですってっ!? この、セクハラナンパ男っ!)

「イッテーっ! やめろ、椿っ! シャレにならないくらいイテェんだよっ!」


バシバシ梛の腕を叩いていると、征二さんの声がした。


「椿ちゃーんっ! 雪柳さん来たよー」


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